9.彼女

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9.彼女

あの時、初めて彼と出会った日、彼は病気が治るようにと願ったに違いない。 おまじないだと能天気にはしゃいでいる私を心から羨ましく、疎ましく思ったたに違いない。   そして、さっきの3周は、もう少し生きられるようにと願ったのだろう。 私が居れば、彼は私を気遣って平気な素振りをするだろうし、もっと生きていたいのにと病気を恨んで苦しむだろう。 だから、分かっている。 彼が平穏に、そして少しでも長く生きていけるように、私は彼の前から去るべきだと。 彼が少しでも幸せに生きられるように願ってあげるべきだと。 けれど、彼が、どこか私の知らないところで息絶えるなんて、やっぱり私には耐えられそうもない。 別れてから1年間、意識しないようにしていたのに、彼に会ってしまったら、もう。 どうか、このまま、時間が止まってくれたら。
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