Ep.54 恋華祭りと初デート

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Ep.54 恋華祭りと初デート

「ーー……嬢様、……セレスティアお嬢様、黒の騎士様、到着致しましたよ」 「ん、んん……、はーい……」  馬車の外から聞こえた馭者のおじさんの声で目を覚ましたら、なんだか右肩がじんわり温かくて重かった。   「あれ……?~~っ!!?」  まだ寝ぼけたままちらっと隣を見て、視界いっぱいに飛び込んできたガイアの寝顔に一気に目が覚め飛び退いた。同時に、支え (私のことだ)を失ったガイアも目を覚ます。同時に彼の伸ばした腕が、動揺のあまり座席から落下しかけた私の身体を支えてくれた。 「ったく、危なっかしい奴だな。大丈夫か?」 「う、うん、ありがとう!」 「どういたしまして。さ、行くか」  やれやれと笑ったガイアが開けた馬車の扉から見えた外の景色に、はてと首を傾げた。 「あれ……?ここまだ城下町だよね。先に王宮にご挨拶に行かなくていいの?」  私達が乗っていた馬車が到着したのは、城下町の入り口に当たる大きな門の前。まだ真冬なのに華やかにピンクと白のバラで飾られた白いアーチにワクワクしつつもそう聞いた私に、ガイアが苦笑する。 「とか言って、お前も町に行く気満々じゃないか。大丈夫、謁見自体は明日だから、今日は急ぐ必要はないさ」  ストンと先に降りたガイアが、笑ってこちらに右手を差し出す。 「せっかく自由な時間もあるし、ここの所溜まってた鬱憤を晴らすいい機会だろ?だからデートしよう」 「……っ!!!?」  予想外過ぎる単語に、既にヒートしかけてた思考回路がボンっと弾けるけど。初めて歩く城下町への期待と目の前の美男子(ガイア)の誘惑に負けて、差し出されたその手を取った。 「まだ真冬なのに、街中がお花でいっぱいだねー」  外の冷たい空気のお陰でいくらか頭が冷えてきた。お陰で雑談する位の余裕は出てきたわ……、まぁ、代わりにしっかり繋がれた右手が熱くて仕方ないんですけどね!  あぁ、と街中を見回したガイアは至って冷静そうなのが余計に恥ずかしい。 「今月は恋華祭りだからだろうな。花屋にも珍しい花が多いようだし」  ガイアの返事に、あぁそうだったと納得した。  今は2月。ガイアの今言った恋華祭りとは、こちらの世界でのバレンタインデーだ。ただし、日本の文化と違って、こちらでは男女問わず、愛しい人に想いを込めたお花や、花を模した装飾品をプレゼントする習わしになっている。ゲームでも、三年目の卒業間近の恋華祭りでルートに入った男性からヒロインへ贈り物を渡すイベントがあった。 (ゲームではスチルイラストとキャラの会話でどんなお祭りか想像するだけだったけど、実際こうして見ると綺麗だなぁ)  この国の城下町は、圧倒的に白い建物が多い。ちなみに屋根は色鮮やかな青色。それだけでもメルヘンで素敵なのに、更に今は街中の至る場所にお花が飾られていてまるで夢の国みたいだ。  こんな景色を手を繋いでガイアと歩けるようになるなんて、再会したあの日には想像も出来なかった。 (結局、ガイアは今ナターリエ様の事はどう感じてるんだろう……) 「ん?どうした?」  考えながら横顔を見つめていたら、視線に気づかれてしまった。しまった……! 「あ、あはは、なんでもない!それよりガイア、デートなんて単語よく知ってたね~。ナターリエ様としたことあるの?」 「……っ!」  って、いくら誤魔化す為とは言え何を聞いてるの私の馬鹿ーっ!  言ってしまったことはもう消せなくて、足を止め一瞬黙り込んでしまったガイアを見つめるしか出来ない。 「いいや、無いな。確かに誘われたことはあるが、俺とルドルフは断ってたんだ」  意外な言葉に目を見開く私、それを見たガイアが柔かく、目元を細めた。 「毎年この時期には贈り物をねだる為に日替わりで全員にお誘いが来ていてさ。でも、年始のこの時期は騎士団は王都の安全管理やらなにやらで多忙だったから休みなんて取れる訳がなくてな。毎回丁重にお断りしてたよ」  その仕事がどれだけ激務なのかは知らないけど、仕事の件だけ声音が尋常じゃなく暗かったので、触れちゃいけないポイントだと察する。騎士の皆様、毎年お疲れ様です……! 「と、言うわけで言ってはみたが“デート”がどんなものなのかは俺もよくわからないんだよな。どんなことをすれば良いんだ?」  え!私にそれ聞く!?私もデートなんてしたことないのに!?でも、憧れとしてあるイメージでなら語れるかな? 「えっ……と、例えば手を繋いで綺麗な景色の場所を歩いたり、お買い物に行ったり、お洒落なお店とか相手のお家とかで2人でご飯食べて笑いあったりとか……かな!」 「へぇ、なるほど……」  一通り言ってみてから、『・・・。』と2人一緒に黙り込む。この一年間の記憶を辿って出た結論をガイアが下した。 「うん、それ既に軒並みやってるな」 「はっ、確かに……!」  なんてこと、これじゃあせっかくガイアが(多分私を元気づけようとしてくれただけとは思うけど)誘ってくれたデートがただの日常になっちゃうわ……!という焦りは、まぁ一旦置いといて。 「あれ?でもナターリエ様とデートしてなかったなら、じゃあ恋華祭りの贈り物はどうしてたの?」 「あぁ、それも俺からは贈ったことはないな。元から花や装飾品なんてものには疎かったし、結局見かねたルドルフが俺に請求された分も用意して渡しに行っていた。まあ、あいつからすれば俺を牽制していたつもりだったのかも知れないが、今ではそれでよかったと思ってるよ」  あまりにも淡々と語るから、それが本心なのはハッキリわかった。こっそりホッとしてたら、いきなりからかうような表情で顔を覗き込まれて肩が跳ねる。 「なっ、ななっ、何!?」 「『何?』じゃないだろ。俺に散々聞いておいて自分は答えないなんて無しだぜ。で?お前はどうなんだ?恋華祭り、何か貰ったことは?」  そう聞いてきたガイアの口元が意地悪く上がっている。これは、絶対貰ったこと無いと思ってわざと聞いてるな~?  記憶を取り戻してからと言うもの、強気になったガイアに私は翻弄されっぱなしだ。いい加減ちょっと悔しい。ので! 「あら、あるわよ?贈り物貰ったこと。それも2人……いや、3人からかな」  2次元でお馴染みのツンデレ女子をイメージして、ここぞとばかりにツンっとそっぽを向く。  ビキッとガイアの表情が一瞬で固まった。     ~Ep.54 恋華祭りと初デート~  ちなみに、この初デートの姿を実は騎士団の部下達が見ていて翌日王宮中で噂になることを2人はまだ知らない。  
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