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狭い獣道を抜けると、湖が見えてきた。この湖には何度か来たことがあった。ルカと魚釣りをして、両手を広げても抱えきれないであろうほど大きな魚を取り逃したことがある。今でも湖を覗くとその時の魚がいないか探してしまう。
今日は水辺に沿ってさらに降り、街へ行く。アンナにとって初めての街だった。アンナは心を踊らせていた。しかし心躍らせる理由はそれだけではない。今夜、初めてマリアから魔法の使い方を教えてもらえるのだ。
湖までたどり着くと、対岸にそびえ立つ山が存在感を放っていた。
砂利道を少し歩くと、黒猫がアンナの前を横切った。
「ネロ!」
アンナはネロに近づくと、しゃがんでネロの体をわしゃわしゃとさすった。
「久しぶりだね〜どこ行ってたの?」
ネロは尻尾をピンと立ててされるがままだ。
横になったネロの近くにくるみが落ちていることに気づいた。
「あ、ラッキー」
2つ拾って、ポシェットに入れる。もう1つ拾った時、ネロが逃げていった。
砂利道に面して建っている空き家へと尻尾を揺らしながら入っていく。
ドアは取れかけ、2階バルコニーの手すりは腐っている。
アンナが生まれた時にはすでに人は住んでいなかった。
ここは危ないから入ってはいけないとマリアに言われているが、入る気も起きない。しかしなぜか見入ってしまう。もうネロは見えなくなっていた。
空き家からは物音もせず静かな時間が流れた。
湖でぽちゃんと音がして、我に帰ったアンナは街へと急いだ。
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