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街へ近づくと少しずつ家屋があらわれ、砂利道も歩き易くなってきた。
4軒目の家を通り過ぎた時、アンナは初めて家族以外の人間に出会った。
彼は木の鍬で畑を耕していた。目の前の土に集中していて、アンナが畑の脇道を通り過ぎたことに気づかなかった。
次に出会ったのはマリアより少し太った女性だった。こんにちは、とすれ違いざまに挨拶をされ、こんにちはと返した。他人との初挨拶。
本当に街に降りてきたんだという実感とともに、幾人もの人とすれ違い、その全てに挨拶をし、気付けば挨拶を仕切れないほど賑わいのある通りに出ていた。
道には石畳が敷かれ、山道よりもはるかに歩きやすい。
街の建物はどれも高く、2、3階建ての建物がいくつも並んでいた。
上部が半円アーチの窓からは時折人影が見えた。
山の上からは街全体がオレンジ一色に染まっているように見えたが、屋根のオレンジは実際には街中で目にすることはなく、クリーム色の壁面が目立った。
家々を縫うように伸びる路地を進むと、大きな通りに出た。
通りの脇には様々な店が立ち並び、お腹のすく匂いも漂ってきた。
通りを右折し進んでいく。道の両端は店の商品を見ながらゆっくりと歩く人々が多く、アンナはなるべく人の少ない道の真ん中を歩いた。
店ではいろんなものが売っていた。カラフルな陶器、艶のある絨毯、見たこともない野菜。初めて見るものに興味をひかれ、よそ見をして歩いていると誰かに腕を引っ張られた。
「危ないよ、後ろ」
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