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「灘川さん、社員旅行を忘れていたんですか?準備、間に合わなそうなら手伝いますよ?」
手伝うって……何を手伝うのかしら?たった一泊の旅行にそんなに荷物なんていらないでしょう?
「大丈夫よ、私は荷物が少ない方なの。温泉に浸かって酔っ払いの相手をして終わるのだから、そんなに必要な物なんてないわ。」
そう、楽しみは温泉くらいよ。せめてもの救いは女性社員の人数があぶれて、私は一人部屋にして貰えたことくらいね。
「周りを散策しないんですか?灘川さんそういうのが好きそうなのに?」
まあ、嫌いじゃないんだけれど……田舎だし、まだまだ寒い時期だから一人で散歩したい気分にはなれそうにない。
「一人で歩き回る気分にはなれないわね、私は部屋で休んでいる事にするわ。」
「何を言ってるんですか、一緒に行くんですよ?僕と一緒に遊歩道を散歩してくれないんですか?」
「何を言っているの?」は、貴方の方でしょう?私は吉無田君とそんな約束をした覚えはないわよ。どうしてそれが当たり前のことのように話すの?
時々発揮される吉無田君のマイペースな強引さに、私は付いていけない時がある。
「いつ、そんな事が決まったのかしら?私は初めて聞いたわ。」
少しだけ嫌味を含めて返す。私ばかりが驚かされるなんて何だか気に入らないもの。
「ええ、たった今そう思ったので。いいですよね、灘川さん。」
私の放った嫌味は完全に無視して話を進めてしまう吉無田君。最近いつも吉無田君のペースで話が進んでいるような気がするわ。
この人は意外と天然で、気付かないで人を振り回すタイプの男性なのかもしれない。
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