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ある、喫茶店。今はカフェとでも言うののだろうか。そこの店のカウンター。
フラスコが五つそれぞれにコーヒーが入っている。
そのフラスコにアルコールランプで火をかけ暖めようとしている、優男。笑みをたたえる口元。きめの細かい色白の肌が、その男の若さを感じさせていた。
男は温まったコーヒーを注ぎカップを黒く染めた。
「ホットお願いします。」
色白の優男の細い声が聞こえた。
パーマのかかった、髪の毛は容易に乱れない、ウエートレス。年のころなら50過ぎであろう。
目じりのシワがその人の愛嬌を教えていた。
若い優男の入れたコーヒーを、パーマのウエートレスがお客さんに運びにいった。
コーヒーを運び終わったウエートレスが戻ってきて、目じりに笑いジワをよせ、優男に言った。
「私が今、コーヒーを持っていった女の子。あんたの方をチラチラ見てるよ。気があるんじゃないの。」
優男はウエートレスの言葉に対しなにも言わなっかたが、明らかに顔が赤くなっていた。
「あら、可愛い。あんた顔赤くしてるの。」
優男の顔はさらに赤くなり、視線は平行に二つに交わることはなさそうに見えた。
優男は恥ずかしさで混乱していた。
しかし、その駆け巡る頭の中で、ふとある人の話を思い出した。
それは、子どもの頃によく遊びにいっていた、神社の神主の話である。
『恥ずかしがりや所のところには、テレ神さまが衝いている』
優男はウェートレスに「トイレに行ってきます。」と一言いって店のカウンターの奥に入っていった。
優男は奥に入っていき、トイレに行くふりをして、誰もいない、休憩室に入った。
休憩室に入った優男は、出勤の時にそこに置いた、自分のカバンの中から財布を出し、さらにその財布の中から、四つくらいに折りたたんである、一枚の白い紙を取り出した。
優男は真剣な眼差しで、その紙に何やら書かれている文字に視線を突き刺している。
そこに書かれていたのは、昔、優男があの時の神主から書いてもらったテレ神さまの追い出し方であった。
一、テレ神は髪の毛を燃した煙によって炙り出される
一、炙り出されたテレ神は、青物の汁により姿を消す
優男は、カウンターに戻った。
ウエートレスは愛嬌のある笑顔で
「お帰り。あんまり席はずしてると、あの子帰っちゃうよ。」
優男は、また「あ、あ、」と声にならない声を出して顔を赤くした。
優男はウエートレスが、客の注文をとりに行ったのを見計らい、自分の髪の毛を4本から5本くらい抜いて親指と人差し指でつまんで、一瞥した。
そのつまんだ、自分の髪の毛をコーヒー温めているアルコールランプにかざした。
髪の毛からは、少しの刺激臭とともに、灰になるのにつれて煙が上がった。
優男は上がった煙にふーっと息を吹きかけた。こころなしか、煙が全体に広がったような気がした。
優男は、その中から炙り出された影を見つけた。
優男はカウンターの中にいる、自分の後ろにある冷蔵庫の中から、サンドウィッチに使うために保冷してある、キュウリとレタスとパセリを取り出し、まな板の上でそれらを適当に包丁で切って、少量の水と共に一緒にミキサーにかけた。
優男は、出来上がった、青野菜のジュースをミキサーからコップへ注いだ。
コップへ注いでいる、ジュースのしぶきがミキサーからはねて優男の顔に2、3滴付いた。
とたん、優男はその場から煙のように姿を消してしまった。
炙り出された影の中から中年ウェートレスが現れた。床に落ちたミキサーと緑色の奇妙な汁の入ったコップを見つけ、カウンターにいるはずの優男を探していた。
~終わり~
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