左手に握られるもの

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 拓巳は右手で綾那を抱きしめ、左手で綾那の左手をこじ開けようとする。 「拓巳、やめて、拓巳!」  綾那は拓巳がしようとしていることに気が付き、抵抗するが、拓巳も必死に綾那を捕らえて離さない。 「綾那、それを渡せ!」 「ダメ、私が終わらせる!」 「なんでだよ、なんでお前が犠牲になる必要があるんだ!」 「もう誰も傷つけたくないの!!」  綾那は、全身の力を使って拓巳を突き離した。  倒れこんだ拓巳は、地面にやりきれない思いをぶつける。 「なんで……なんで綾那が……」  地面を殴る痛みより心の痛みがずっとずっと重く、拓巳を襲っていた。 「ごめん……ごめんね、拓巳……。でも、私、誰も苦しんでほしくない。誰かが犠牲にならなきゃ、この呪いは終わらない。それに……拓巳にだけは、何があっても渡さない。愛してるから……」  普段であれば、幸せな気持ちになるであろうその言葉に拓巳は脱力した。 「俺だって……俺だって、綾那を愛してるんだ……。綾那が犠牲になるくらいなら、俺が全部引き受けるから……頼む……頼むよ……」  拓巳の目から涙が溢れる。 「うん……ありがとう。でも、ごめんね……」  綾那の意志は、どうしたって変わらない。拓巳ももうそのことに気が付いていた。
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