喫茶セマタリー

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喫茶セマタリー

1  「いらっしゃいませ」  喫茶セマタリーの呼び鈴が軽やかに鳴ると女性店員の明るい声が、客を出迎える。 死後、にんげんはどこに向かうのか? 喫茶セマタリーで紅茶や珈琲を一服しにいく。お茶菓子や軽食を食べたり、煙草を吸ったりする死者もいるが、かれらの共通点はゾンビということだ。  「ここは天国か?」  セマタリーを訪れた一人の死者が、店内を見回しながら呟いた。 天国というには薄暗く、テーブルの椅子に腰をかけた死者たちが、朽ちた珈琲カップで珈琲を啜っていたり、目玉のないネコが腐った食べ物をカリカリと食べていたりと不気味な場所だ「違う、地獄か?」と言おうとするも地獄にしては、どこかのんびりとしている印象がある。  「ここは、喫茶セマタリーと申しまして、喫茶店で御座います」  「天国でも地獄でもなく喫茶店に迷いこんで来たということか。ということは、これは夢だ。とてつもなく、質の悪い悪夢にオレはうなされているんだな」  「お客さま、ご注文は如何なさいます?」  男の疑問を他所に、女性店員が訊ねて来た。
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