突然の。

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突然の。

夜明け前の町は人影も無くて、寂しさが増す気がした。朝の肌寒さが余計に身に染みる。スーツケースを引く陽太(はるた)の後ろを歩く私の足は、かつて無く重かった。これから一年間も会えないなんて。 私たちが住む田舎町の最寄り駅から始発に乗り、午後には陽太は異国の地へと旅立ってしまう。 「飛行機、何時だっけ?」 「…四時二十分。」 「…気をつけてね…」 「…うん」 もうすぐお別れだと思うと、何て話して良いかも分からなくなってしまい、会話も途切れがちになった。 俯きトボトボと足を動かしながら、ただ陽太の靴の踵ばかりを見ていたら、通り慣れた橋の上で不意に陽太が立ち止まった。 「綺麗だな。暫くこの景色も見納めなんだな。」 「…そう…だね。」 山の向こう側から朝日が昇り始め、空も川も見渡す限り朝焼けに染まっていた。見慣れたはずの景色も何だかいつもと違って感じるのは、この感傷的な気持ちのせいなのだろうか? 暫く景色を眺めた後、急に決意したように陽太が私の方に向いて話し始めた。 「ねえ、晴香(はるか)。」 「うん?」 「ホントはさあ、海外赴任が終わってから言おうと思ってたんだけど…。」 「うん。」 「結婚しよう。」 「へっ?えっ、なっ、ええっ?!」 驚き過ぎて変な所から声が出た。今からお別れだと思って泣きそうになっていたのに、急にそんな事を言うなんて。 「もちろんさ、実際に結婚出来るのは帰国してからだけど。今、この景色を見てたら急に言いたくなって。ごめん、今は指輪も花束も何もないけど。」 指輪が無くても、花束なんて無くても良い、その約束があれば、今からの遠距離恋愛だって耐えられると思えた。一年なんて、きっとあっという間に過ぎるとさえ思えた。 「はい。宜しくお願いします。」 かしこまって返事した私は、左手を引かれ陽太の胸にポスンと収まった。優しく抱きしめてくれる陽太の腕の中で、私はキラキラとした幸せな未来へと続く道を見ていた。
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