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もし会えたら。
私は橋の上のあの場所へと急いだ。そこに陽太がいると知っているから。
あのプロボーズの日と少しも変わらない陽太。川も町も、辺りも同じように朝焼けに染まっている。陽太はいつもの通り、少し困ったような笑顔で私を迎えてくれた。そして、何か物言いたげな表情で私をじっと見つめてから、腕の中へと引き寄せてくれた。
抱きしめてくれる陽太の腕の中で、その腕の強さを感じながらただじっとしていた。言いたい事、聞きたいこと、したいこと、全部全部我慢して。この幸せな時間が少しでも長く続くように……。
だけど、そんな奇跡のような瞬間は長続きはしない。やがて日がドンドンと高くなり真っ白な光に照らされて、何も見えなくなっていく。目の前にあるはずの陽太の胸さえも見えなくて。
『待って、お願い、行かないで!陽太!!』
必死で叫ぶのに、自分自身の声さえ聞こえない。
『お願い―――』
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