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――ああ、まただ。
涙に濡れた枕と、熱く重たく感じる目元。喉の奥がヒリヒリと痛む。ベッドの上で暫く茫然としてしまう。部屋はまだ暗く夜は明けていない。
光の無い世界でもう生きていたくない、私がそう思う度に夢の中に会いに来てくれる陽太。もう何度目だろう?
だけど、今日の陽太は何かを言いたいような表情をしていた。
ふと枕元のデジタル時計で時間を確かめようとして気付いた。永遠のお別れからちょうど一年、陽太の命日だった。
私の中で何かが繋がった。あの橋に行けば陽太に会える?考え始めてしまったらもう、いてもたってもいられなかった。
Tシャツとジーパンに着替え、パーカーを羽織ってノーメークのまま部屋を飛び出した。
「晴香?!こんな時間にどこに行くの?!」
廊下には慌てた様子の母が起き出していた。心配そうに曇る母の表情を見て、申し訳なく思う。あんな事があってから一年も引きこもっていれば、どれ程気苦労をかけているか分からない。
だけど、今はどうしても行かなきゃいけない気がする。
「散歩!すぐ戻るから!」
そう言って家を飛び出した。
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