32人が本棚に入れています
本棚に追加
「きゃーー、待って、待ってー!」
若い女性の叫び声に、何事かと振り返ろうとしたら、太股の当たりに衝撃を感じた。
「きゃっ!」
「やだっ、すみませんっ、大丈夫ですか?こらっ、ハル、ダメでしょ。お座り!待て!待てって!」
女性の命令なんてなんのその、リードをぐいぐい引っ張って犬が私に飛びかかっていたのだ。
「やだっ、ホントすみませんっ。いつもはこんな子じゃないんですけど、今日は急に…。こらっ、ハル、落ち着いて!」
ちぎれるんじゃないかって位尻尾をブンブンと振る犬は、女性の命令なんて聞く気配は全くなく、私から離れようとはしなかった。
太い脚に茶色と黒が混じった毛並みは、獰猛な犬種を思わせる。
「何犬ですか?」
「雑種なんですけどね、シェパードが入ってるみたいで。ハル、お座り!」
「ふふっ、可愛い。」
「ありがとうございます。何か、いつもはもっとお利口なんですけど、今日はどうしても散歩に行くって騒ぐし、出たら出たで走るし。もうっ。ハルタ!」
その名前にドキリと心臓が大きく鼓動した。
「ハルタって言うんですか、名前…」
「そうなんです、この子男の子で、多分、春に生またみたいなんで。」
最初のコメントを投稿しよう!