4.ハロー、ブルーバード

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 人前式によって執り行なわれた挙式のあと、参列者によるフラワーシャワーが待っていた。初夏の晴れわたる空に、真っ赤なバラの花びらが舞い上がる。  最前列で待っていたのは紗弥と綿谷の部活仲間たちだ。「紗弥きれいだよー」と本気で泣いている友人もいれば、「幸せになりやがってコノヤロー」と満面の笑みで彼に花びらをぶつけるものもいる。  淡いピンク色のドレスを着た小雪が花かごを手に、後列に並んだ親族たちに花びらを配っていた。その姿をそっと武が見守っている。  無数に舞い上がる花びらを受けながら、紗弥はまっすぐに進んだ。花かごを持ったままふりむいた小雪に、ブーケをさし出す。 「幸せになりなさい」  そう言うと、小雪は目を丸くした。本来なら参列者に投げるはずだったブーケを、血のつながらない妹がそっと受け取る。  誰よりも彼女の幸せを望んでいた。彼女がくれた無償の愛が、紗弥の固くなった心をときほぐしてくれた。  彼女が恋に破れて苦しんでいたとき、同じように胸を痛めた。姿を消した武を探して押しかけてやろうかと何度も思ったが、ぐっとこらえた。  これからの小雪の幸せは、自分ではなく、この長身の男に託す他ない。  綿谷が同期生たちに絡まれているすきに、紗弥は武に言った。 「次、泣かせたら承知しないわよ」 「おまえの鬼の顔には慣れてる」  よそをむいたまましれっと言ったので、空いている手で彼の腕をつねった。  彼の悲鳴に驚いた小雪がこちらをむく。紗弥は姉の顔で花の精のような妹を見守る。武はため息をつきながら、そっと小雪の手を握る。  ふいに頭の中で『バイ・バイ・ブラックバード』が流れる。綿谷が店名にこめたもう一つの願い――それは、最後のコーラスに登場する「ブルーバード」の存在にあった。  ――幸せの青い鳥、今日は私の幸運な日。いま私の夢がかなうのよ。  紗弥は綿谷の腕を引きよせる。足をふらつかせながらも、調子を合わせてくれる。最後列で一度ふりかえり、二人は大きな鐘の下で視線を合わせる。  すると突然、綿谷が紗弥を抱え上げた。その瞬間、地面の左右からシャボン玉が吹き出した。  目を丸くしていると、綿谷は楽しそうに笑った。Vサインを送ってくる愛美や信洋の様子を見る限り、紗弥へのサプライズ演出だったらしい。  私をだますとはいい度胸だ、と言わんばかりに彼らを睨みつけると、それも予想の範囲内だったのか、仲間たちが指笛を吹きならした。  胸がはち切れそうになりながら綿谷にしがみついた。こぼれ落ちそうになる涙を誰にも見られたくなかった。  始まりの鐘が鳴る。明るい未来を祝福するように、シャボン玉は空高く昇っていく。  ハロー、ブルーバード。私はこの人と共に生きていく――                            (おわり)
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