もう一人の僕

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  夢だ、やっぱり僕はまだ悪夢の続きを見ているんだ……   早く覚めなきゃ、と思った僕は姿見を両手で掴むと、その木枠の部分に何度も頭をぶつける。 「おいおいちょっと落ち着けって。そんなことしたって背は伸びないぞ」 「……」   もう一人の自分が素っ頓狂なことを背後から言ってきた。でも、コンプレックスで悩んでいる部分を何気に突いてきたので、かなりムカつく。 「それよりお前は誰なんだよ!」   気にしている身長のことを言われたせいか、僕は勢い余って強い口調で叫んだ。 普段滅多に大声なんて出さないからか、喉がちょっと痛い。 そんな自分の捨て身の努力もむなしく、相手は「え?」ときょとんとした表情を浮かべると、また同じことを言う。 「だから俺は荒巻晴矢だって」   まだ聞くの?  みたいな表情を浮かべる相手に、僕はますます頭が痛くなった。 ちなみに、さっき姿見の木枠にぶつけていたおでこも痛い。   待てよ、痛いってことは……   おでこをさすりながら、僕はやっと肝心なことに気がついた。   これは夢だ、と思い続けていたけれど、じゃあどうして痛い?   夢であれば痛くないはずだし、それに、おでこもこんなに生々しく赤くはならないだろう。 「夢じゃ……ないのか?」   さすっていた右手を止めて、僕は思わず呟いた。一番考えたくはなかった可能性が、頭の中に浮上する。 「まあたぶん現実だろ。だってほら、つねったら痛いし」   そう言って目の前にいる相手は、自分自身の両頬を両手で引っ張っている。「いでで!」と間抜けな顔と声を出しているその姿に、僕は呆れすぎて言葉が返せなかった。 理解できないことばかり続いているせいで目眩さえしてきたので、そのまま勉強机の椅子へと腰を下ろすと、頭を抱えて大きくため息をつく。   どうなってんだよ、マジで……   疲れ、苦痛、混乱などなど、負の要因や感情が頭の中で大暴れしていて、僕は顔を上げたくなかった。 が、視界の隅では、もう一人の自分が何やら考え事をしているし、反対側の視界の隅では、置き時計の針が相変わらず逆方向に時を刻んでいる。ちなみに、窓ガラスの向こうではきーきーとコウモリたちがうるさい。 「なんでこんなことに……」   ああ、神さま。とすがるような心境で僕は思わず声を漏らす。   今まで普通の人生、なんの取り柄も特徴もない高校生活を送ってきただけだ。なのに、どうしてこんな世にも奇怪すぎることがいきなり起こる?
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