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サヨナラ、そしてありがとう
「やっべ!遅刻するわ」
「剣(けん)ちゃん、はい、お弁当」
「美都(みと)さん、だからウサギの巾着はやめてー💦」
「えー、可愛いんだから、いいじゃない?」
「あ、マジヤバい」
剣太郎は口の中に残っていた最後の食パンをかみ砕くと、リュックを背負って玄関を飛び出した。
「剣ちゃん、いってらっしゃい!」
「剣、気をつけろよ」
背中にかかる声は、ガチャリと閉まる重いドアの音で掻き消える。
マンションの階段を飛ぶように駆け降り、駐輪場から出した愛用のマウンテンバイクにまたがると、剣太郎は一気に漕ぎ出した。
小高い丘の上にある自宅マンション前から駅への道は、長い長い1本の下り坂だ。
碁盤の目のように交差する横道は、ふもとまで全部で7つ。
勢いがつくと、上から3つ目あたりで、スピードはMAX時速70㎞にもなる。
「ひゃっほー♪」
7時半。
夜明け。明るくなり始めた山際。
ところどころに残る外灯のあかり。
ピリッと頬を指す、冷たく新鮮な冬の朝の空気。
白い息。
眼下に広がる街並み。
この爽快感はなにものにも代えがたい。
剣太郎は愛車にウインクして、ささやく。
「今日もサイコーだな★
輪(リン)ちゃん、愛してる♡」
一瞬、剣太郎は前方から目を離した。
『危ないっ!!』
キキキキキキーーーーー!!!
あ、れ?
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