アパートメント『&.c』にようこそ!

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アパートメント『&.c』にようこそ!

 アパートメント・エトセトラ(Apartment "et cetera")円錐(えんすい)の塔。紫の夕空を突き破るように(そび)え立っており、天辺に金色の風見鶏(かざみどり)がいて、くるくる回る。風向きなんか分かりっこないのに愉快(ゆかい)げに。  磁場が狂っていて、消炭色(Charcoal gray)(はと)が集まり、ベランダの生垣から真っ赤な果実を食べる。朝と夕暮れじゃ鳴き声が変わって不気味だ。  (つる)状に巻き付く螺旋(らせん)階段の手摺(てすり)に止まり、その羽根を休め、住人の帰りを待っている。どうしてか、真夜中にはいなくなるけれど。  壁面はペンキを混ぜたようなマーブル柄。どこから見ても違った模様に見える極彩色。観音開きの扉には『&.c(etc)』の鍵文字が光る。ちゃちなイルミネーションさながらに……。  ぐるっと180度、一枚硝子の窓があって、ラムネの(びん)()かした藍色(あいいろ)の夜空みたいに、覗き込めば、覗き込むほど、歪んで見える。  ロンドンの通りみたいに奇妙な名のついた(にぎ)やかな裏路地(うらろじ)に酔っ払って迷い込んだら、興味本位でいいから窓を(のぞ)いてみるといい。  (つばさ)の生えた魔法使いが人間に()()まして夜な夜な大酒を飲んだりパーティーしたり、どんちゃん(さわ)ぎして暮らしているから――。
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