ゴールデンアワーの雷鳴、スコール

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ゴールデンアワーの雷鳴、スコール

「でもよ、兄貴に()れてるんだろう、お前。俺じゃなくて、プレゼントは兄貴に(おく)れよ」  また突然――涙の乾いてない濡れた頬に、煙草を持ち替えたサラの冷たい手が触れる。至近距離で(ひたい)に触れた唇もまた冷たかった。  驚いた夢久はぽかんと小さく口を開ける。サラの銀に輝く湖の水面みたいな緑の瞳に、姿が映って物静かな表情で見つめられると、懐かしいながらも、自分勝手な幼馴染みに、ストレートな言葉で心の中を掻き乱された。 「ちが……ちがうよ、なにをいうの、サラ」  乙女心を隠して若草色の瞳を黒く染めるとまた困ったようにじわじわ赤くなるけれど。 「ふーん、シャーちゃんって呼べよ、夢久」  そんな危うい場面、二人の間に割り入り、電撃を食らわせたのは夢久の義兄であった。 「うわっ、いてえ……何だこれ、動けねえ」  単純思考で動物的なサラは、おいたして、お仕置きされても何が起きたか分からずに、吹っ飛ばされ、(したた)かに背中をぶつけてから、ダマスク柄の壁に痛く(はりつけ)にされ、青褪(あおざ)めた。 「シャーちゃん!」「大変!」「キャー!」  バタバタ慌てふためく妖精たちが浮遊し、散乱するカラフルなスリッパが飛び回った。転がるビール瓶をペタンコな靴で蹴散(けち)らし、踊るように風の速さで魔女っ子もワープし、魔法陣の描かれた床に対角線を引くように、反対方向にいるサラの元へと駆け寄ったが。 「放っておけ、夢久(むく)(しばら)く反省させておけ」  今度、666のドアから現れたのは美青年。夢久の兄の亜文(あもん)もまた、精霊で魔法使いだ。颯爽と歩み寄り、光の色の金髪を(なび)かせる。全身から神々しいまでの金のオーラを放ち、その瞳は魚の()めなさそうな(みずうみ)の底の水色。  どこからどう見ても人間には見えないし、神様に見えなくもないが、青年の姿である。
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