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ヴァンパイア。
人間の生き血を啜り、老いることなく人間の数倍もの年月を生きる種族が、この世には存在する。
長い歴史の中で、おびただしい数の人間がヴァンパイアの餌食とされてきた。それゆえ今やヴァンパイアは、人間にとっては狩って然るべき存在となっていた。
己の安全を脅かす敵に対し先手を打つことは、生きる者の本能である。
メアリは人間だ。街の有力者の家に一人娘として生まれた彼女は、両親から蝶よ花よと育てられ、先の冬に齢十六を迎えた。
一方のフィリップはというと、彼こそまさに、血を吸う「鬼」として人間に恐れられ憎まれる種族、ヴァンパイアであった。
吸血する者とされる者。惹かれ合ったところで誰一人として幸せになれぬ出会い。その舞台はメアリの寝室、満月の晩の出来事だった。
蒼い月に照らされた二人の若者。恋に落ちたのは、一体どちらからだったのだろう。
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