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「もう、日が昇る……。その前に、早、く……」
「そんなこと、出来ない。きみを担いででも、僕はきみと逃げるんだ」
「だめ、私と一緒じゃ、逃げ切れない……。早く……、早く行って!! こんなところに、居たら……、二人とも、見つかってしまう……!」
いつの間にやら雲は晴れ、東の山際も仄かに白み始めていた。橋の上などという目立つ場所に留まっていては、追っ手に見つかるのも時間の問題だろう。
そしてフィリップには、日光という避けようのない敵もあった。
「ほら、掴まって……!」
「だから、だめって」
なおも抵抗するメアリを抱き上げ、フィリップは立ち上がる。そして、彼女の姿勢を安定させるため胸に抱き寄せた。
すると。
トクン、トクンと、彼女の心音が時を刻んでいる。
フィリップは、その場で動けなくなった。
腕の中には、愛しいメアリの体温がある。
顔を上げると、先程駆け抜けてきた林が視界の先に広がっている。
そしてその向こうには。
彼女を育んだ町がある。彼女の両親が住んでいる。そして今、彼らはメアリを血眼で探していることだろう。
メアリをこのまま連れ去ってしまって良いのだろうか。
突然の迷いが、フィリップの心の内に生まれていた。
自分とこのまま逃げたとしても、彼女に待つのは、人間の理から離れ闇夜の中で生きる未来だ。
けれど彼女を置き去りにし町に帰したところで、恐らく彼女は、自宅に軟禁されてしまうだろう。
いずれにせよ、もうメアリはこれまでのように生きることは叶わないのだ。
それならば、いっそ――。
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