彼女のくれた朝日

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 僕は彼女を抱きしめた。  離れたくなくて、必死に彼女を抱きしめる。  抱きしめた彼女はやっぱり死人で、何の温かみも感じられなかった。  その一方で、温かなオレンジ色の朝日が、今日も残酷でしかない世界を照らしだす。  始発の電車が動き出し、車の音もする。遠くで犬が鳴いている。人が息をする気配が漂う。  彼女はくすくすと笑いながら、僕をぎゅっと抱きしめる。 「あーあ。抱きしめられたら、本当はこっち目的で来たような気がしちゃう。昔あったことも、あなたが私にしたこともきれいさっぱりどこか行っちゃって。  ただ、このためだけに蘇って来た気がしちゃう。」 「そうじゃなくてごめんよ。最後の最後まで守ってくれてありがとう。」 「いいのよ。」   「ヒサ。」 「うん?」 「また、会えるかな?」 「大丈夫。ずっと一緒にいるよ。」  彼女はそう言って、僕の頬にそっとキスをすると、朝日に向かって歩き出した。僕はあまりの眩しさで、太陽を見つめ続けていることができなかった。そして、ちょっと目を反らしたす隙に、彼女は消えていた。  彼女が消え去ったあと、胸の痛みが津波のように押し寄せてきた。  苦しくて、苦しくて、僕は地団太を踏みたい気持ちだった。  けれど、朝日はもう昇りきっている。僕の暗く完璧になった部分さえも照らし出すように強い光を称えて。  そして、光の中に笑っている彼女がいる。  僕はその眩しい光を今度はぐっと受け止める。目を細めて、顔を背けたりしなかった。  開いた手はパーだった。
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