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登りゆく朝日中、我に返ると彼の腕に抱かれていた。
その暖かさに自然と涙が溢れる。
「大丈夫……一緒に逃げよう」
彼は私を強く、強く抱きしめながら力強く囁いた。
4時間前、私は国会議員の父と一緒に旅館にいた。
父はその日も私に関係を迫ってきた。
「お父さん、もう、止めて下さい」
そうして父と揉み合いになってたところに彼が駆けつけてくれた。
「先生! 何をしているんですか!」
「うるさい! お前には関係ないだろ!」
私と父の間に入ろうとした彼は父に胸ぐらを捕まれ、部屋の外に放り出されてしまった。
「もう、本当に止めて!」
ネクタイを緩めながら近づいてくる父を力いっぱい手で押した。
「ゴツ!」
何かが、強くぶつかり合う音に驚き閉じていた目をゆっくりと開けた。
「ひっ、」
そこには頭部から大量に血を流して倒れる父がいた。
私は自分の手を見つめ、自分のしたことを理解すると、堪らず部屋を飛び出した。
そして、最初は出来るだけ遠くへと走っていたが、疲れ果てるとどことも分からない橋を歩いていた。
そんな私を彼は必死に探してくれて、今抱きしめてくれている。
朝日が徐々に上がり私達に迫ってくる。
その日の光から逃げるように彼に手を引かれて私達は現実からも逃げた。
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