1人が本棚に入れています
本棚に追加
掃除
「今日は掃除をしよう」
真矢の提案だった。
「何故」
「部室が汚いから」
透哉が部室を見渡す。
ゲームソフト、漫画、雑誌、ダンベル……。あらゆるモノで部室は溢れていた。
「とは言っても、三割くらいは真矢の私物じゃねえか」
「三割は透哉の私物だろう。だから、僕が今日言いたいのは、私物を片付けよう。ということだ」
「残り四割の備品はいいのかよ」
「先輩たちが蒐集したものだからな、おいそれとは捨てられんだろう」
「だよな」
「だから六割を占める僕達の備品をどうにかしよう」
「ま、そうなるか」
二人が重い腰を上げ、片づけを始める。
しかし、雑誌を持っては読み始め、ダンベルを持っては筋トレを始める二人に、この部室の片づけは非常に難易度の高いものだった。
整理整頓の進捗が思わしくないまま一時間が経過した頃……。
かしゃん、とプラスチックで出来た物体が床に落下した音が響いた。
「ん?」
「お?」
真矢が先にその落下物を発見し、拾い上げる。それはグレーのプラスチックで出来た、古いゲームカセットだった。
「こんなソフトがあったのか、どこへ紛れていたのか」
「真矢のか?」
「いや、これも引退した先輩たちのモノだろう。初めて見るタイトルだ」
「プレイしてみるか」
「そうだな、気になる」
ゲーム機本体にソフトを差し込み電源を入れる。
この時代特有の非常にゲーム画面の起動からタイトルが表示される。
「二人プレイもできる様だ」
「じゃあ2P俺がやる、コントローラー取ってくれ」
「チュートリアルは……無いか。説明書も無いし、操作が分からないな」
「身体で覚えていくしかないだろ」
「これが攻撃で……これがジャンプか」
「……難しいな」
「難易度の設定間違えてねぇか!?」
「いや、でも面白いぞ」
「この感じクセになるな」
「透哉、回復拾うか」
「いやまだいける、真矢にやるよ」
――この日、掃除が再開されることはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!