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スポットライト
私の仕事は文字通り、人にスポットライトを当てること。私が働いている場所は小さな町の小さな劇場、その中の一番後ろにある小さな小さな調光室。私はここで、ステージの明かりを操作している。観客は皆、こちらに背を向け、誰も私の存在に気づかない。まさに光の当たらない、影の仕事。
私はここで四十年働いてきたが、今日は私の退職の日、ここでの仕事も最後になる。しかし、やることはいつもと変わらない。淡々と目の前のスイッチを操作するだけ。
ステージでは劇が終わり、最後の挨拶のために、役者さん達が一列に並んでいた。さあ、これが終われば、私の舞台裏人生も終わりだ。
「今日は皆さんに話しておかないといけないことがあります」
主役の男の人がマイクを持ち、観客を見渡すように言う。
「実はこの劇場には、四十年もの間、ずっと照明装置の仕事をしてくれていた女性がいます」
その言葉に、私はスイッチを操作していた手を止めた。
「彼女は誰にも見られない場所で、黙々と、僕ら役者のためにステージの明かりを調整してくれました。僕らは彼女のおかげで、思う存分に劇をすることができました。しかし、今日で彼女は退職となります。四十年間、この劇場を裏で支えてくれた彼女に感謝の言葉を送りたいと思います。本当にありがとうございました」
ステージ上の彼がこちらに向かって大きく礼をする。操作盤上に置いた私の腕が震える。いつしかガラス越しの景色が、にじんでいた。
その時、お客様達が席から立ち上がった。そして、普段は背中を向けている彼らが私の方を向き、拍手をこちらに送る。劇場に割れるような拍手の音が響いた。それらが全て自分に向けられているものだと思うと、こらえきれない感情が瞼から溢れ出した。
私は立ち上がり、深く深く礼をする。この仕事をやってきて良かった、心の底からそう思えた。
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