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低くなだらかな白い山。のりの利いたシーツは、冬の陽の光で目に眩しいほどだ。
機械の規則正しい音が、心音の代わりに部屋に響く。ともに光る赤い色は、イルミネーションには程遠いが、ぼんやりと見るには悪くなかった。
呼ばれた気がして、ベッドの隅に乗せた頭を浮かす。かのちゃ、と今度はより明瞭に耳に届いた。
枕元に立てば、うっすらと空いた両目が、鹿乃子を認めて細くなった。
「……慎太」
「あのね、かのちゃん」
「私、おばさん呼んで」
「かのちゃん」
行かないで、と引き留められて、鹿乃子は迷った。けれど、椅子を引いて近くに座る。声が細い。顔を近づけてなに、と尋ねた。
「おれ、聞きたかったんだ」
「うん」
「……だれ」
「うん?」
「この前、来てた人……かのちゃん、のこと……連れてったの」
「……」
自分を連れて行った、とは、と状況を考えて、思い当たるのに、しばらくかかった。何しろ、コメットと別れてから十日近く経っていた。明日はクリスマスイブだ。
そういえば、と記憶をたどる。鹿乃子の姿は見えなくなる、と言っていたが、コメット自身については言及がなかった。
なにしてんのかな、とぼんやり思考を飛ばしてから、何となく窓の外を見た。もちろん、トナカイはいないし、人もいない。ここは三階だ。青空と葉の散った銀杏しかない。振り返ってから、友達、と続ける。
「ともだち?」
「に、なれたのか、ぐらいだね。いい奴だよ」
「……好きなの?」
「……」
どこをどう飛んだら、その質問になるのだろうか。そもそも……いや、今言ったところで詮無いと、鹿乃子はただ首を振った。
「友達になれたかも、ぐらいだってば。別に嫌いじゃないけどさ」
「だって、一緒に……」
慎太の声が途切れる。そうじゃないよと言うにも、いろんな説明をするにも、今はあまりにも状況が悪い。
でも、一つだけ。
「慎太」
「ん」
「慎太。お帰り……待ってたんだ、ずっと」
「うん。ありがと」
優しく、そっと腕を広げて、鹿乃子は慎太を抱きしめて、枕に額を埋めた。
目を閉じた。息遣いを、頬で感じる。
人の生きる、ぬくもりがあった。
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