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朱音はマンションの下に降りるのは厳しいと思い必死に声を上げて煙でむせながら助けを求め、そしてやっと下から来た消防隊員に助け出されたのだ。
全身濡れてもゴミ袋を放さず、救急隊員に毛布をかけてもらい色々質問に答えているときに冬真が現れ、あんな切羽詰まった顔も、声も、そして自分を見つけ安心した冬真を見ながら朱音はこれは夢なのだと思った。
自分をちゃんと見て欲しかった、本当は大切にされていると感じたかった、まだ自分を覚えていて欲しかった、そんな沢山の身勝手な欲望が見せている夢なのだと。
この洋館で目覚めてやっと現実だとわかった今、ありがとうございます、とお礼を口にすべきなのに声を出すことを躊躇してしまう。
何か言いたげな朱音に気が付きながら、
「オーナーから、当分朱音さんの部屋が使用できないと連絡がありました。
すぐに他の手配は厳しいですし、どうでしょう、ここに戻ってきては」
にこりと冬真が言えば、朱音は目を見開き時が止まったようになっている。
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