第一章 ラブラドライトの紡ぐ出逢い

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もちろん自分の分は自分で支払い済み。 恩着せがましく先にカードで支払ったようだが、きっちり計算した上で多めの額を無理矢理男の手に握らせた。 あれくらいの額で恩着せがましくする時点で、ケツの穴の小さい男だ。 生活が大変な朱音からすればあの額は小さくないのだが、よく考えれば何でお金を払ってまで我慢し続ける時間を味わったのかと思うと思い返すだけで腹が立ってくる。 食事途中に『せっかくのスープの香りも貴男の香水で消滅してますけどもしかして鼻炎ですか?』とか、『遙かに若い女に説教しないと満たされない自尊心とか惨めですね』とか、『だからその歳で結婚できないんですよ』等々言いたいことは沢山あったが、必死に我慢した自分を褒めてやりたい。 そんなこんなでとんでもなく心身が疲れた朱音は、その男と一緒に食べたはずのフレンチの味の記憶など無く、こんな拷問に耐えた自分にご褒美をあげなくてはと、素敵なカフェで美味しいデザートが食べられないのか、男と別れ人の賑わっている店が並ぶエリアに着いたと同時に無表情でスマートフォンで検索し、横浜元町洋館の中で素敵なカフェに大人気のお洒落な『生プリン』があるとの記事を読んで、私はプリンで心を浄化させるのだと、ただ無心にそこへと向かっていた。
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