逢瀬

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薄暗い部屋で、ふたりの少年少女は何度も唇を重ね合わせる。 「愛美、愛美……!」 「好きよ、お兄ちゃん……」 ふたりは愛を確かめ合うように、互いを求める。近づいてくる足音にも気づかずに……。 「お前達何をしてるんだ!」 ドアが開き、入ってきた父は罵声を浴びせた。 「親父!? 今日は遅くなるって……」 兄である明久は、困惑しながも義妹の愛美を抱きしめる。 「最近お前達がなにかしてると心配していたら……。恥知らず共が!」 父は明久の腕を乱雑に引っ張る。 「なにすんだよ!」 「お兄ちゃん!」 「うるさい!」 父は愛美を蹴り飛ばし、明久を突き飛ばした。愛美はその場で泣き崩れ、明久は壁に叩きつけられる。 「お前はこっちに来い!」 父は明久の首根っこを引っ張る。 「ふざけんな、離せよ! 愛美、愛美!」 「黙れ! 俺はお前をこんなだらしない息子に育てた覚えはない! 愛美、お前がそんなアバズレだと知ったら、母さんがどれだけ悲しむと思ってるんだ!?」 父はふたりの返事を待たずに大きな音を立てながらドアを閉め、明久を物置部屋に閉じ込めた。 「しばらくそこで反省してろ。お前達のことは、母さんと話し合って決める」 父は冷たく言い放つと、物置部屋から遠ざかる。 「チクショウ、なんでだよ!? 俺と愛美はこんなに愛し合ってるのに! 血の繋がりなんてないのに!」 明久は何度も床を殴りつけながら、悔し涙を流した。 両親の話し合いの結果、ちょうど2ヶ月後に大学に入学する明久を寮にいれることになった。それまでの間、明久は必要最低限でしか部屋から出ることを許されず、愛美は明久が大学に入るまで母と一緒に安アパートに住むことになった。 徹底した両親の管理のせいで、ふたりは別れの言葉を言うことなく離れ離れになってしまった。
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