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璃子は厨房をぐるりと見渡す。
中央に調理台、向かって右側の壁際にはコンロやオーブン、そしてグリル。左側にある大きな扉は、業務用冷蔵庫だろう。調理道具も設備も、充分なものが揃っている。また、隅から隅まで美しく磨き上げられていた。
調理台の上には食材もたっぷりだ。野菜はどれもスーパーで見かけるものだし、生き生きとしていて新鮮だと分かる。とはいえ。
「わたしの料理で大丈夫かな」
幼い頃から母親と二人暮らし、料理は璃子の担当だった。進学で上京してからも、その流れで自炊している。
もちろん、極々平凡な家庭料理しか作ったことはない。とはいえ、お腹を空かせたビャクをこれ以上待たせるわけにもいかない。
璃子は『七珍万宝料理帖』を手に、「よし」と気合いを入れた。料理本を手にしただけで、なぜかとても心強い。
しかも、ざっと目を通しただけなのに、『七珍万宝料理帖』のレシピが頭に入っている。
――不思議だなぁ。
ごはんは炊けているようだ。漂う甘い香りで分かった。となれば、味噌汁とおかずを準備すればなんとかなるだろう。璃子は冷蔵庫をのぞく。肉や魚、調味料、どれも馴染みのあるものばかりだ。庫内は清潔を保たれきちんと整頓されている。
――鮮度も問題なさそう。
とりあえず安心する。そこで、ステンレスのタッパーに入った鯛のあらが目に入り、冷蔵庫から取り出した。ゆうに十匹分はありそうだ。
「そう言えば、あの鯛めしレシピ、はじめて見たな」
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