参 昼餉は余すことなく

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※  「こんな宿、出ていってやらぁ!」  突然の大声に驚いた璃子は、味噌汁の椀を落としそうになる。  食堂の入り口を振り返ると、藤三郎が頭からはちまきを取り床に叩きつけているところだった。その隣では、困り果てたように眉を下げるビャクが立ちすくんでいる。  従業員食堂と呼ぶにはアットホーム、畳敷きの和室には丸いちゃぶ台と座布団が並ぶ。食堂というより古民家の居間だ。天井には味のある曲がった梁、素朴でレトロな平笠の照明。  騒がしい藤三郎を気にすることなく、隣のテーブルでマイペースに魚をつつくスタッフは、人の形をしているが猫耳と二本の尻尾を持っていた。  人も人ならざるものも一緒。そんな光景にも数日で慣れてしまった。順応性の高い璃子である。  ――ビャクさん大丈夫かな。  伊吹が留守のため食堂で夕飯をとっていたが、落ち着かなくなり、璃子はそっと箸を置いた。 「藤三郎さん、どうしたんでしょう」  梅が不安そうな顔をした。 「ちょっと、行ってきます」  同じテーブルで食事をする桜たちにことわって、璃子は席を立つ。 「どうしたんですか?」  入り口に立つビャクのそばへ行き、用心深く訊ねた。すると、じろり、藤三郎から睨みつけられる。 「璃子さん、こちらへ」  ビャクに腕をひかれ璃子は食堂の外へ連れ出されてしまった。藤三郎から距離をとったところで、ビャクが小声で言う。
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