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闇がすべての光を飲み込む
闇の支配者は面白くなかった。闇あってこその光なのに、光ばかりが注目され、必要とされている。さらに、単に求められるばかりでなく、ライトアップだ、プロジェクションマッピングだとエンターテイメント性を高め。多くの人に夢や希望を与えている。闇は嫌われ、恐れられている。時には、存在を消されようとすることもある。不安と不満がたまっていた。やるせない気持ちを抑えられなかった。一方的ではあるが、決着をつける必要があると感じていた。闇の支配者は、光の支配者を呼び出した。
「お前の存在自体が我慢ならない。勝負したい」
と闇の支配者は、単刀直入に切り出した。
「どうやら、勝負しないことには、どうにも納得できないといった感じのようですね。やむを得ません。ただし、一つだけ提案があります。『光あれ』という神のお言葉はご存じだと思います。私は、神の創造によって存在していますので、神に勝負のお許しと勝負の判定をお願いしたいと思います」
と光の支配者は、勝負に条件をつけた。
「そう言うだろうと思って、すでに神には勝負の立ち合いをお願いしてある。それでは、三日後の日没の時刻に勝負開始だ。勝負である以上、負けた方は、」
「わかっています。負けたら、潔く命を絶つこととします」
と光の支配者は言葉を継いだ。
三日後の日没が近づいていた。
神は、闇の支配者と光の支配者の両者に申し渡した。
「立ち合いを求められたので、私が勝負を見届け、最終的には勝負の判定を下す。私の裁定を受け入れることが条件だ。両者ともその点は、私にすべてを委ねるということでよいか」
両者は頷いた。
日没の時刻となった。
「それでは勝負を始めよ」
と神が鬨を告げた。
闇の支配者が、暗黒の闇で光を飲み込んでいく。光の支配者は、いくつもの強力な光源を展開し、逆に闇を追い込んでいこうとする。死闘が数時間続いた。
最終的には、漆黒の闇があたり一面を覆い、静寂に包みこまれた。
「勝負あったのではないか」
と闇の支配者は、どこからともなく声を発した。
「まだ勝負はついていませんよ」
と光の支配者もどこからともなく、反論の声をあげる。
「どこにも光はないではないか、それとも真っ暗闇、すなわち完全な無、何も見えないから、勝負の判定はできないとでも言うのか」
これには、神も加勢する。
「そんな理屈は通らない。そんなことはわかっているだろう。きちんと根拠を示せないようなら、勝負ありということになるが、言い分があるなら聞こう」
「まだ闇に飲み込まれていない光があるんですよ。黒い光を放出しているのですが、この光が輝きを放っているうちは勝負は続いています」
と光の支配者が答えた。
闇の支配者は、闇で包み込んだ光をいったん解放した。そうすると確かに一筋の黒い光が差し込んできていた。だが、再び光を飲み込んでいくと、黒い光は探知ができなくなった。
神が裁定を下した。
「確かに黒い光は存在するが、これでは、判定しようがない。勝負は引き分けだ。光の支配者は『負けたら命を絶つ』と宣言していたが、負けてはいない。両者とも今までどおりともに相手を認めて、存在し続けよ」
判定を委ねた以上、神の裁定は絶対であった。
「仕方ない。引き分けを受け容れるしかない」
と闇の支配者は、ため息をついた。
「今回、勝負しないというのは無理な情勢でした。だから勝負に応じましたが、闇あってこその光というのは十分に理解しています。その気持ちだけはわかってほしい」
と光の支配者が言うと、
「俺は、そう言ってほしかっただけなのかもしれない。嫉妬や僻み根性でしかなかったのかもしれない。その言葉を聞くことができて俺としては満足だ。勝負する必要はなかったのかもしれないな」
と闇の支配者は神妙な面持ちで心情を吐露した。
そこに神が割って入った。
「わかった上で勝負をやらせたんだ。行き着くところまで行かないと理解しあえないこともある」
神にそう言われてしまうと、両者はもう何も言えなかった。
以後は、光と闇が争うことは二度となかった。この勝負を機に、光と闇の関係は、未来永劫安定することとなった。
(終)
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