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2、君の映画はまだ序盤
学校に通っている中学生は今、どんなことを考えているんだろう。やっぱり、高校受験かな? それとも、友達と遊ぶこと? ちなみに僕は悩んでいる。自分はこれからどうなるんだろうと考えている。まぁ、全部自分のせいでこうなったんだけどさ。
不登校になった。正直、これに尽きる。理由はある……はずだ。「理由は何?」と聞かれたら、答えられない。だって、自分でも分からないんだ。自分が分からないものを答えられるはずがないだろう? 模範解答があったならそれを答えるけど、そんなの、自分の答えじゃない。そんな答えなんかに意味はない。
「どうして、学校に来ないんだ?」
そんなことを考えていたら、先生に誰も望んでないであろう質問をされた。だから、答えられないんだって……。
不登校になってから、そろそろ一か月になる。先生も焦っているんだろうな。最近は、先生が家に上がることが増えた。先生の汚名になるから、学校に来て欲しいのか。親に頼まれて来ているのか。それとも、真剣に僕のことを考えてくれているのか……。
姉ちゃんが不登校になった時も、こんな感じだったな……。あの時は、父さんも母さんもカンカンに怒っていたっけ。
「何か言ったらどうなんだ。」
「……」
言えるはずがない。だって、理由が分からないんだから。分かっていたら、こっちだって苦労していない。「不登校児はみんな理由がはっきりしている」とでも思っているのか? そういう偏見が、僕みたいな人を困らせているんだってことに気がついて欲しい。そう思っている人に一言だけ言わせて。
『ふざけるな』
不登校児に理由を聞いても簡単には答えないことぐらいは覚えておけ。まず、不登校児に理由を聞くこと自体が失礼だ。不登校から立ち直った人に最初にそれを聞こうと思っている奴は、恥を知れ。
「……新藤、映画は好きか?」
「……はい。」
いきなり話を変えてきた。僕としては、かなり嬉しい質問だけど、なんでこの質問なんだろう。
映画は大好きだ。一か月に一回は、映画館に行っている。映画が上映される前に流れる予告のせいで、観たい映画がいっぱいできてしまう。そういえば、今月は映画館に行っていない。先月やっていた映画の予告で、面白そうな映画があったのに……。
「映画って、面白いよな。2時間で人生を味わった気分になれる。」
「はい。」
映画の話になると、僕は身を乗り出してしまう癖があるらしい。だけど今、そんな元気はない。声に元気が戻ったぐらいだろうか。
「新藤の人生を映画に例えるなら、今はどのあたりだと思う?」
「……」
ここで僕を絡めてくると思わなかった。だけど、映画の話だと思って話すなら、話しやすいかもしれない。もしも、僕の人生を映画に例えるなら……
「終盤です。」
「終盤……それはどうしてだ? 新藤。」
「僕の人生は、間違いだらけです。僕はもっと……人を助けるべきだった。」
「人を助ける?」
「そうです。僕は、自分のために動いてきた。それがもしかしたら、誰かを助ける行為だったのかもしれない。だけど、本当の意味での人助けができていないんです。」
「お前にとっての人助けって、どういうものなんだ?」
僕にとっての人助け? そういえば、考えたこともなかった……。ああ、急に自分の言っていることが、よく分からなくなってきた。僕は何を言っているんだ? どうして人助けをするべきなんだ?
「ごめんなさい……わからないです。」
そういえば、僕の人生が終盤である意味も分からない。先生の質問にすら、答えることができていない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
恥ずかしくなってきた。自分は、まともな受け答えすらできていない。それが、恥ずかしくて仕方がなかった。
「新藤、俺の意見を言うぞ?」
「……はい。」
何を言われるんだろう。僕の意見を否定してくるかな……。
「新藤は、すごく優しいと思う。」
「そうですか……。」
否定はしてこなかった。とりあえず、ほっと一安心。だけど、先生が言ってくれた「優しい」という言葉は、僕にとってあまりうれしい言葉ではない。どうしてかは分からないけど、「優しい」と言われることが多い。もし、僕が本当に優しいのなら、僕はこの優しさが大嫌いだ。この優しさのせいで、人のことばかり気にしてしまう。人のために行動してしまう。いらないんだよ。余計な優しさなんてさ。こんなのがあったって疲れるだけだ。
「優しいからこそ、新藤の映画は序盤だ。いや、プロローグって言ったほうが
いいかもしれない。」
「え?」
てっきり、中盤って言うのかと思った。僕の人生は終わりに向かっていく。不登校になって、このまま外に出られずにニートになって……それで終わる。分かってるよ。つまんない人生だなんてさ。でも、だからこそ終盤だと思った。終盤でないとしても、中盤だ。やっぱり終わりに向かっていく。そう思っていたのにどうして、序盤なんだろう。いや、序盤にすらなっていないんだっけ。
「もしも、ここで学校に来なかったとしたら、確かにお前の人生は終わりに向かうだろう。」
「やっぱり、終わるんじゃないですか……。」
「だけどな、新藤。ここで学校に行ったとしたら、お前の映画は始まる。」
どういうことだよ……始まるわけがないだろ。もう、誰も僕を受け入れてくれない。クラスが新しくなって、三日も経たずに来なくなった奴だぞ。僕のことを知っている奴なんて、ほんの一握りだ。もう、だれが同じクラスだったかも覚えていないのに……戻れるはずがないんだ。
「新藤、映画が始まるには主人公が動かなきゃいけないんだ。映画を始めるため、観客に喜んでもらうため、学校に来てくれないか?」
映画の話をしているときに僕を学校に行かせようとしてくるのは、先生にとっては大失敗だ。先生の学校に来て欲しい気持ちが、僕の映画よりも大事みたいになってる。他の人から見たら、そう思わないかもしれない。だけど、そんなのは関係ない。今、一番大事なのは、僕の映画という名の人生がどれだけ大事に思われているかだ。僕が大事に思われていないと思った時点で、先生の失敗は確定している。先生にとっては、僕のことを大事に思ってるから言っているんだろうけど。
「ごめんなさい……学校には、行けません。」
「……分かった。また来るよ。」
僕は、誰にも見てもらっていない。僕の映画をだれも期待していない。僕の映画なんて、面白くないに決まってる。
「新藤、これだけは忘れないでくれ。」
「はい?」
先生は、さっきまで玄関に用意された椅子に座っていた。なのに、いつの間にか先生は、玄関の扉を開けていた。
「新藤正樹を見ている人はいる!」
「そんなわけ……」
「じゃあな! お邪魔しましたー!」
いつもと同じように笑顔で家を去る。扉が閉まり終わっても先生は、太陽みたいに輝いているはずだ。
先生の映画は、きっと僕の映画よりも面白いんだろうなぁ……
先生は、僕の映画が始まったら喜んでくれるのかな……
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