4、映画の始まりは女の子

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4、映画の始まりは女の子

 下駄箱で上履きに履き替え、辺りを見渡した。案の定、誰もいなかった。このまま下駄箱で待っているのは嫌だから、相談室を探すことに決めた。下駄箱を出て左を見てみる。すぐそこにいつも使っていた階段があったが、気になったのはさらに奥の方にある教室だった。 「すこやか相談室?」  奥にある教室には、「すこやか相談室」と書かれた張り紙があった。おそらくあそこが、父さんの言っていた相談室だろう。案外、早く見つかるもんなんだなぁ。こんな身近にあるものだとは知らなかった。僕は寒かったから相談室に入ることにした。 「えっと……失礼しまーす」  聞こえるか分からないぐらいの音量で言った。 「……う、うう……」  女の子の泣き声が聞こえる。僕の声に反応……した感じじゃなそうだ。僕は何を思ったのか、泣き声が聞こえるところまで歩いて行った。  そこは、明らかに周りから見えないように隔離されてあった。教室の一番奥の隅にある部屋で、組み立て式の壁で中が見えないようになっている。  普通だったら、この部屋に入ってはいけないんだなと分かるが、僕は無意識にドアに手をかけていた。  そして、深呼吸をして、ドアを開ける。 「ぐすん……うう……」 「あの……」 「……うっ……え?」  この瞬間に気が付いた。僕は何をやっているんだろうと。でも、気が付くのが遅すぎたようだ。女の子は泣きすぎて腫れってしまった顔でこっちを見ている。ものすごくかわいい! という印象は、残念ながらなかった。いたって普通の女の子という感じだった。 「えっと……だ……(いじょうぶ? なんて聞かれたら嫌なんだろうなぁ)」  頭の中で言おうとしたことを即否定した。  さすがに、初対面の相手に泣き顔を見られたうえ、「大丈夫?」と聞くのはダメだ。僕がそれをやられたら、すごく惨めな気持ちになる。だから、とりあえず謝ることにした。 「ごめん、驚かせちゃって……」 「……ううん、大丈夫。こちらこそごめんね。君が来たことに気がつけば良かったんだけど……」  さっきまで泣いていたのに、もう話せるぐらいに回復している。僕だったら、回復しても鼻水ダラダラの状態で話すぐらいなのに。この人、気持ちの切り替えが早い。 「……」  情けないことにかける言葉が見つからない。同情の言葉を述べてもいけない気がする。しかし、このまま何も言わないよりはマシなのか? だとしてもなぁ…… 「えっと……あの……私は、玉木詩音。詩に音と書いて、しおん。あなたは、なんて名前?」  ああ、情けない。さっきまで泣いていた女の子に気を使わせてしまった。本当なら僕から名乗るべきなのに。 「……新藤正樹。正しいの正に大樹の樹と書いて、まさき……ごめん。いきなり部屋に入った上に気を使わせちゃってさ……」 「そんな! 謝ることないって! 私がいけなかったとこもあるから、どっちもどっちだよ」  なんて優しい女の子なんだろう。勝手に部屋に入ってしまった僕が悪いのに……それに気を使わせてしまったし……変な空気だし……ろくに会話できないし……駄目だ、暗い気持ちにしかなれない。こんな状態で僕はこの女の子に何をしたかったんだろう。自分の行動の意味が全くもって分からない。 「玉木さんは優しいんだね。僕のことを気遣ってくれるなんて……」 「そんなことないよ。私は……弱いだけだよ……」 「……」 「…………ぐすん…」 「……」  2分ぐらい、沈黙が続いた。その理由は、玉木さんがまた泣き出してしまったからだ。どうしてかは分からないけど、先生が来ない。相談室の先生は何をやっているんだよ。早く来てくれよ。ものすごく気まずいんですけど……。 「玉木さん、こんなことを聞くのは良くないと思うけど……どうして泣いているの?」 「…………」  ですよねー、やっぱりこの質問は駄目ですよねー……って! 謝らないと! 「ごめん! 話したくないなら話さなくても大丈夫! そこまでして聞きたいことでもないから!」 「……いや、話すよ。なんか、新藤君になら包み隠さず話せる気がする」  ……やっぱり聞かなきゃよかった!  ヘタレとか言うなよ?
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