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――もう、あの頃に戻ることはできないのかな。
自分で別れると決めたくせに、まだ未練たらしく彼を思う自分がいることに気づいて、呆れてしまいそうになる。浮気されて、嘘だってつかれた。
でも、それでも――やっぱりまだ、彼のことが好きだなんて。
物思いに耽っていた私は、近付いてくる足音に気付けなかった。
突然後ろから手を引かれて、思わず悲鳴が零れる。
だけど――包まれた温もりに、胸が苦しくなる。
「……何で此処に居るの?」
私からの問い掛けに体を揺らした彼は、抱きしめる腕に力を入れた。
「っ、ごめん、ごめん……」
ひたすら謝罪の言葉を繰り返す彼。
――彼は、いつも飄々としていた。
浮気して謝る時だって、眉尻を下げて手を合わせる程度だった。
だから、ここまで切羽詰まった彼を見るのは初めてのことだ。
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