23人が本棚に入れています
本棚に追加
***
家に帰れば、いつも彼女が笑顔で出迎えてくれる。
今日は特に予定もないと云っていたので、先に帰宅しているはずだ。
――だけど、飲み会を終えて帰宅すれば部屋は真っ暗で、彼女の姿はどこにも見えない。そして、洋服や鞄といった彼女の私物が幾らか減っていることが分かる。
今一度室内を見渡せば、テーブルの上に白い紙切れが1枚ポツンと置いてある。
震える手で手にすれば、そこには彼女の筆跡が残されていた。
――俺の手から、ひらりと紙切れが滑り落ちた。
今日は、サークルの飲み会だったんじゃなかったの?
“もうしない”って言葉、信じてたよ。
さようなら。
彼女には、サークルで飲み会があると伝えていた。
だから帰りが遅くなる、と。
――俺は、彼女に嘘をついていた。
本当はサークルで飲み会なんてなかった。同期の女の子に誘われて、2人きりで飲みに行ったのだ。
彼女は、どこでこの嘘に気付いたのだろうか。
……否、もしかしたら、初めから信じてなどいなかったのかもしれない。
当たり前だ。
俺は、何度も彼女に嘘をついてきたのだから。
最初のコメントを投稿しよう!