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至って平凡な、女性の1人暮らしの部屋だろう。
しかしその“平凡”という言葉を立て続けに覆していくこの空間を、ぐるりと見回してから百子は言った。
「時に麻由、大家や不動産屋には確認してみたのか?」
「うん……曰く付きの事故物件、とかではないみたいだけど……
どう百子、何か感じる?」
「うむ……」とだけ小さく唸ってから、彼女は少し考える素振りを見せ、やがてテーブルの前にどっかりと胡座をかいて座った。
「麻由、学友が久々に来訪したのだ。
ボサッとしとらんで、茶のひとつも出さんか。
ちなみにわたしは、ホットミルクがよいぞ」
社会人になったとは言え、あの頃と何一つ変わっていない百子の性格に、わたしは少しだけ気持ちが救われたように思う。
それに当時から霊媒師まがいのことをしていた彼女の存在を、今ほど心強く思ったことはないだろう。
カーテンの隙間から覗く闇や、テレビ横のぬいぐるみの瞳、何でもないようなそんなものにいちいち脅えながらも、わたしはその風変わりな友人を恭しくもてなした。
どこか淀んだ静寂の中、ミルクを啜る音を鳴らしつつ、百子は話し始める。
「見たところ、霊道という訳でもなさそうだ。
麻由、お前、ひと月前に何かあったか?
例えば心霊スポットに行ったとか、死亡事故の現場を目撃したとか」
「別に……そんなことなかったけど……」
彼女は、湯気で曇った眼鏡レンズを、丁寧にティッシュで拭いた後、真正面から貫くようにじっとわたしを見つめた。
その視線が、なんだかわたしを通り過ぎて、さらに背後に注がれているように思え、つい身がすくんでしまう。
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