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やはり、“居る”のだ。
そう思った途端に、全身の悪寒が再びぶり返し、わたしは思わず百子にしがみついていた。
「わたしがいるうちは大丈夫。
だが……かなり強い怨念と哀しみを感じる。
麻由、その歌の事をもう少し詳しく教えてはくれないか。
歌っている最中、何か感じなかったか?」
そんな落ち着いた口調で質問されたって、こっちは冷静でいられるはずがなく、上擦る声は殆ど喚きに近い。
「わかんないよっ!
あんな意味の無い歌詞なんて、何の感情移入も出来るはずないじゃない!
まるで自分が、ただ発声するためだけの機械になったみたい!」
「機械……とな?」
何か思い当たる事でもあったのか、百子はホットミルクをズズと啜ると、ゆっくり天井を見上げた。
光度が高いはずのLED電気なのに、何故か部屋の空気がくぐもって見える。
やがて百子は、独り言でも呟くように、ポツリと声を落としたのだった。
「ちぃとばかり、気になるものがある。
今、巷を密かに騒がせている怪奇な霊障……
“呪いの歌”と呼ばれる動画を、お前は知っているか?」
呪いの歌──?
そんなものわたしは知りもしないし、興味を持って検索するわけもない。
百子が言うには、現在オカルトサイトなどで話題に登っている、動画共有サイトに投稿された歌の動画らしい。
その動画を見た者のうち、ある者は聞こえるはずのない女性の声が混じって聞こえ、またある者は画面の中から女の顔が浮かび上がったという、所謂都市伝説まがいの噂だそうだ。
勿論、知りもしないわたしが、そんなものを観ているはずもなく、それの霊障であるはずもない。
それなのに百子は、あろうことかスマホを操作し、有無を言わさずその動画とやらをわたしに突き出して見せるのだ。
「大元の動画共有サイトからは既に削除されているが、一部のオカルトサイトや韓国のサイトなどには、まだミラーが残っておる。
ほら、これだよ」
「嫌だよ百子、こんな時にそんな恐いもの見せないでよ」
「案ずるな、おそらくお前ならば問題ない」
何が問題ないのかさっぱりわからないが、わたしの静止も聞かず、彼女は無表情で再生をタップした。
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