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恐る恐ると覗いた画面には、真っ黒な背景に、歌のタイトルらしきものが表示されていた。
『重なる螺旋』と言う難解なタイトルだが、やがて始まった歌の歌詞もまた難解。
極めて抽象的な謎解きのような言葉が連なるが、どうやら愛しい人を想うラブソングだということは理解できた。
女性が歌う、しっとりとしたバラード系のメロディだけれど、わたしは何より、その歌声に違和感を感じてしまうのだ。
まずは滑舌が悪く、聞き取れない語句が多々あった。
歌い方もたどたどしく、どういう訳だか人間の肉声の持つ質感が、まるで伝わってこない。
わりと短い歌で、2分足らずだったろうか。
再生中はひたすら真っ暗なままの画面であり、歌詞のテロップが表示されることもない。
何とか最後まで聞き終えたわたしは、止めていた息と共に感じたままの感想を吐き出した。
「なんか……人間が歌っているとは思えない」
「いかにも、これは人間が歌っている歌じゃないよ」
ギョッとして息を飲んだわたしに、百子は表情も変えずに続ける。
「この動画を見た者の中にはね、その後幽霊を目撃した者もあるのだよ。
彼らが見たと言うその若い女の容姿格好がね、とても良く似ているのだよ」
「だ、だ、誰に似てるのよっ!?」
大きくて丸い眼鏡のレンズが、電気を反射し爛と光った。
百子はまた、わたしを貫くような眼差しでじっと見据え、低く唇を震わせたのだった。
「さっきからずっと、お前の後ろに立っている女と……だよ。
どうやらあんたの歌声は、厄介な死者を甦らせてしまったみたいだね」
「い…………
いやぁあぁぁぁぁーーっ!!」
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