"映え"るEVE

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　――カララン……。

「お。綺麗だな、幸一」

　密かにテーブルをひとつ予約しておいたカフェの扉を開けると、クリスマスツリーと鐘の音が出迎えてくれた。

「ぱぱ、しゃしんとる？」

「そうだな」

　立花さんがスマホをコートのポケットから取り出して、俺は思わず口走った。

「あれ、スマホ買ったんですか？」

「ああ。LINEとか、緊急時に便利だって聞くしな。ついに買ったよ」

　立花さんが三日くらい前まで、ガラケーだったことを知っている俺は、『LINE』という言葉に釣り上げられてしまった。

「LINEやってるんですか？」

「いや。両親はガラケーだし、LINEをするほど打ち解けた友だちも居ないし。普段は使わないつもりだ。それに、あれだろ？　『既読スルー』でモメるのは嫌だ」

　冗談めかして笑う立花さんが、何だかとても親しげで、俺は距離感がバグって困る。

「だけど幸一が写真を見るのが好きだから、昨日インスタグラムのアカウントを取ったんだ。まだ何も投稿していない。これが、記念すべき一枚目だな」

　そう言って立花さんは、入り口のツリーを撮った。

「みせて～！」

「待て待て。今、アップするから」

「やり方、分かります？　俺もインスタやってるんで」

「おっ。そうなのか。じゃあ、横尾が記念すべきフォロワーひとり目になるな」

「光栄です」

「おにいちゃんのインスタも、みせて」

「良いよ。レコーディングダイエット代わりに、食い物くらいしか撮ってないけど」

　今日の昼に食べた、サービスステーキの画像を見せる。子どもとどう接すれば良いか、最初ちょっと緊張したけど、幸一くんはとても人懐こい子どもだった。月並みな言葉で言えば、天使みたいに可愛い。

Yo.Ke.Pi.9999
#20191224
#クリスマスイヴだから奮発
#昼飯から肉だぜ
#サービスステーキだけど
#野菜は食べない派
#肉肉肉
#いい肉の日
#は過ぎたけど

「おいしそう！」

　幸一くんは、嬉しそうに俺のスマホを覗いて、『ぱぱ』を急かす。

「こうちゃん、おにくたべたい」

「ああ……特別メニューって言ってたな。コースか？」

「いえ。単品も頼めますよ。幸一くん、チキンで良い？」

「うん！」

　席に着くと、立花さんがスマホの画面を見せてきた。

「一枚目。"映え"てるか？」

「綺麗に撮れてますね。めっちゃ"映え"てます！」

　太鼓判を押すと立花さんは、また笑って幸一くんにも画面を見せた。

TachibanaSubaru_Kouichi
カフェに来ました。
クリスマスにひとと外食したのなんて、何年ぶりかな。
内装も凝ってて、凄く綺麗なカフェ。
#クリスマスイヴ #カフェ #クリスマスツリー