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「きれい! ぱぱ、よくできました」
子どもは親の口癖を真似すると聞いたことがある。きっと、立花さんも家で言ってるんだろうな。
そしてチキンとクリスマスプディングを頼んで、呑み会の席でも話さないような、色んなことを話した。出勤初日、俺が遅刻して第一印象は最悪だったこと。一ヶ月経って、俺と同期の新人はみんな辞めていったのに、見どころのある奴だと立花さんは俺を買っていること。誰にも話していなかったのに、つい俺にバツイチ子持ちだと明かしてしまったのが、何でだか自分でも分からないこと。
気付くと、客は俺たちだけだった。ラストオーダーを訊かれて始めて、随分と話し込んでいたことを知る。デザートにケーキと紅茶を頼んで、華やかな盛り付けに、また立花さんがシャッターを切った。
TachibanaSubaru_Kouichi
普段甘いものはあまり食べないけど、ここのは生クリームが甘すぎなくて、美味しかった。
息子も大喜び。
#クリスマスイヴ #カフェ #ケーキ #フルーツティー
バックパックの中にあらかじめクリスマスプレゼントを用意していたけど、いま出したら立花さんに気を遣わせることになると思って、俺は店を出てから提案した。
「立花さん、どっち方面ですか?」
「新宿で、西武新宿線に乗り換えだ」
新宿駅から西武新宿駅までは、歌舞伎町の横を通って三百メートルほど歩く。俺にとっては好都合だった。
「西武新宿駅まで歩くんですか?」
「ああ」
「じゃあ、送りますよ。イベント日の新宿なんて、絶体酔っ払いだらけです。幸一くんも居るし」
「だけど……」
申し訳なさそうに言葉を濁した立花さんを、元気な声がさえぎった。
「おにいちゃん、おうちくるの? ぱぱ、おにいちゃんとあそびたい!」
思わぬ援護射撃だ。俺は幸一くんの顔を見下ろして、二カッと笑った。
「う~ん、そうか。じゃあ、悪いけど……送って貰おうかな」
幸一くんの小さな手が、俺の右手をキュッと握った。反対の手は、立花さんと繋いでいる。将を射んと欲すれば、まず馬を射よ。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。無事に西武線に乗って、二十分で最寄り駅に着いた。
「横尾、ビールで良いか? ワインとかの方が良いか?」
道すがらのスーパーの店頭に出された、スパークリングワインを眺めながら、立花さんが訊く。よっし。家に上がれるの、確定。俺は上がってしまう口角をこらえながら、努めて冷静に応えた。
「飲み物なんて、何でも良いですよ。立花さんが居れば、水道水でもご馳走です」
「……そ、そうか」
あれ? スベった? 冗談のつもりだったんだけど。代わりに幸一くんがキャハハと笑って、俺は立花さんのマンションに招待された。
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