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「幸一、写真上げたぞ」
「はーい」
幸一くんはケロッとして、ソファの方に走っていった。俺も自分のスマホで、フォローしたばかりの立花さんのインスタを見る。
TachibanaSubaru_Kouichi
息子に、クリスマスプレゼントを貰った。
柴犬が好きだって話してたら、柴柄のハンカチ!
良かったな、嬉しいな。
#クリスマスイヴ #クリスマスプレゼント #柴犬 #ハンカチ
いいねを押してから俺は、気を取り直して、妄想した未来図への布石を置くことにした。バックパックから、もうひとつの包みを取り出す。
「あのこれ、ちょっとしたものなんですけど。立花さんにも」
「俺にも?」
大きな瞳を更に真ん丸にして、驚いている。そのリアクションに何だか気恥ずかしくなって、手渡したあと、頭をかいた。
「いや、ホントにちょっとしたものです。お歳暮代わり」
「ありがとう。開けて良いか?」
「もちろん」
立花さんは、ラッピングを丁寧に開けて、目を輝かせた。
「綺麗だな。これ、何だ?」
「バスボールです。お風呂に入れる、入浴剤」
「へえ……最近は、こんなに可愛いのがあるのか」
七色に輝くバスボール。メッセージは、ハート型に託して。立花さんは、もうクセになってるのか、無意識にそれをスマホで撮っていた。
ん? 右手の感触に、見下ろすと幸一くんが手を握っていた。さっきみたいに、反対側は立花さんの左手を握って。
「ぼく、しってるよ。ハートは、すきなひとにあげるんだよね。ぱぱ、クリスマスプレゼント、くれる?」
「「えっ」」
俺たちは幸一くんを見て、固まった。いつか告白しようとは思ってたけど、いまはまだ時期尚早だと思う。じわじわ攻めていくつもりだった俺は、子どもの冗談にしようと、乾いた笑いを漏らした。
「は、はは。幸一くん、パパを困らせちゃ駄目だぞ。確かに、立花さんのことは好きだけど……」
立花さんも苦笑してるだろうと、顔を見て、俺はまた固まってしまった。立花さんは……顔を真っ赤にして、その色を隠すように口元を掌で覆っていた。え……ど、どうしよう。何これ? 見詰め合って固まる、顔の赤い男ふたり。握られた手に、キュッと力が加わった。
「ほらね。すきどうしなんだよ。おふろにいれるのあるから、みんなでおふろはいって、かわのじでねよー!」
一体、何処まで意味が分かって言ってるのか。幸一くんは無邪気にはしゃぐ。
「おふろに、おゆいれてくる!」
そう言い残して、幸一くんはバスルームに行ってしまった。え……いや、ちょっと。この状況、最後まで責任取って。幸一くん……。俺たちは、見詰め合ったままだ。流石に気まずくなって、曖昧に言葉を発した。
「えーと……」
「そうなのか?」
「え?」
「期待して良いのか?」
「え……え」
立花さんが、ゆっくりと立ち上がった。身長差はさしてないから、赤い顔同士が近付く。急に、気まずさより恋慕が勝って、心臓がバクバクいいだした。視線が、いつもは盗み見ていた桜色の唇とはしばみ色の瞳を往復する。近付く……嗚呼。
「好きです」
吐息で囁いた直後、唇が触れ合った。ほんの一瞬、掠めるようなバードキス。離れて、言葉を待つ。
「……嘘を吐いた。横尾に子持ちだって話したのは、俺のことを知って、その上で好きになって欲しかったからだ」
「好きです」
「俺も」
「駄目です」
「え?」
「俺は言いました。立花さんも、ちゃんと、言ってください」
戸惑うように視線が落ちて、泳いだあと、囁かれる。
「……好き、だ」
そんなカタコトのI love youさえ、愛しくて。長いまつ毛を伏せたままの立花さんと、コツリと額を合わせてうなじを撫でた。幸一くんの足音が聞こえる。俺たちは、示し合わせたようにスッと身を分かった。
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