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思い巡らせ、答えに窮する私を、堪え切れず彼は不意に抱きしめた。
全く予期していなかったこの展開に戸惑いは隠し切れない。
けれど、不思議と嫌な気にはならなかった。
むしろ、崩れ落ちそうな心を支えてくれているようで安心感すら覚える。
張りつめていたものが、胸のつかえが、息苦しさが…解きほぐされていくようだった。
まだ太陽の恩恵を受けていないヒンヤリとした空気を遮るかのように、彼の熱と鼓動が伝わってくる。
冷え切った私の体に温もりが戻り、ほどけていくみたい。
東雲(しののめ)の空に包みこまれたかのような錯覚に陥った。
山の稜線が浮かび上がる。
川面がキラキラと揺らめく。
私の大好きな時間。
私の秘密の場所なのに。
なぜ、あなたが現れたの?
まるで時が止まったみたい。
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