0人が本棚に入れています
本棚に追加
感動の再会
もうじき日が暮れる。影が伸び、カラスが鳴く。裕二(ゆうじ)は途方に暮れて、湖を眺めていた。夕陽が眩しく、腕を置いた柵は冷たい。
こんなはずじゃなかった。たった一つのすれ違いで、こんなことになるとは思っていなかった。
「はぁ……」
深いため息をつく。もう、このまま、離れ離れになってしまうのではないか。そんなことを考え、スマホを取り出した。彼女からの通知もなければ、既読も付いていない。
もっと感謝の気持ちを伝えていたらよかった。手作り料理が世界一美味しいと言っていればよかった。家事をもっと手伝ってあげればよかった。
いなくなって後悔することがたくさんあった。いくつもの思い出が胸を刺し、景色がぼやけ始める。
大の男が、こんなところで泣いていいわけがないと自分に言い聞かせ、歯を食いしばる。しかし、溢れる涙は止まることを知らない。拭っても、拭っても、出てくる。
「裕二……?」
その声はとても優しく、朝日のように温かい。間違いようもない。反射的に声の方へ目を向けると、そこには貴子(たかこ)がいた。
そして裕二は、貴子であることを確認したと同時に、走り出した。
「ママぁ‼︎」
そう言って裕二は貴子に抱き、叫ぶ。
「ママぁ、怖かったよ、もう会えないと思った。本当に怖かったよぉ」
「ごめんね、不安にさせて。スマホの充電なくなって電話もできなかったの。本当にごめんね」
周囲から痛い目で見られていてもお構いなしに、二十三歳の裕二はマザコンを披露した。
最初のコメントを投稿しよう!