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ネフィは最初こそは不満を口にすることがあった.なぜなら,ラージェはただ,自分の昔話をしていくだけだったからだ.まるで絵本のような話は確かに心躍るものではあったが,一向に魔法の使い方などには触れることはなかった.横で聞いていたギィはラージェが意図的に避けていることに気が付いていたが,そこがネフィには不安だった.だってただでさえ何も知らない自分がレナートの弟子になれるわけがないと思いこんでいたからだ.  だが,それも日を追うに従ってだんだんと減ってきた.そんな不安などを忘れるくらいラージェの話はネフィの心を躍らせた.そもそもこの田舎で過ごしてきたネフィにとってこの前の旅ですら新鮮な物であったのだ.まして,400年も生きてきた,それも優れた魔女として生きてきたラージェの話を聞いていると,ネフィはまるで自分が母に童話をねだっていた子供の時代に戻ったように感じるくらい心が惹かれた.終いに,もはやこの話がどう魔法使いに関係があるのかなんて気にすらしなくなってきていた.案外ネフィは楽観的な所がある少女であった.    冒険譚から,滑稽な話,思わず泣いてしまう悲しい話,ラージェの話は尽きることがなかった.実に半年が立とうとしていた.すでに雪がちらつき始め,近くに見える山は白く化粧をし始めていた.  寒さゆえかラージェが軽く急き込んでしまう. 「ゴホン・・.さぁ,今日の話は御終いよ」 「お母さん,大丈夫?最近,咳がおおいけど」 「ええ,そうね・・.少し冷えてきたからかしらね」 そう言うとラージェはまた急き込んでしまう.心配そうに見つめるネフィに笑いかける. 「ええ,大丈夫よ.さあもう寝なさい」 「本当?無理はしないでね.それじゃ,お休みなさい」 ネフィが部屋を跡にしたのを確認すると,ラージェは必至に部屋の外に音が漏れないように,服の袖で口を覆い急き込んでしまう.ようやく静まった時には服には赤い斑点がついていた. 「大丈夫か?魔女ラージェ」 声をしたほうを振り向くとそこにはギィが心配そうにちょこんと座っていた. 「あら,狐さん.いたのね」 気丈に笑いかけるラージェにギィは思わずため息をついてしまう.最近,ラージェが弱っていることにギィは気付いていた.そして,そろそろネフィも気付くだろう. 「少しでも伸ばそうとは思わないのか」 「ええ,全く」  そう言って首を振るラージェに思わずギィは声を荒げてしまう.少し達観したところがある彼には珍しいことだった. 「どうして,あんただってネフィと話しているのは楽しいんだろ?いつもどんな話をするか考えているじゃないか,それなのに・・」 「有難う,狐さん.貴女の気持ちは嬉しいわ.でもね,私はそうはできないのよ」  自分が,人ですらない自分が言うべきではないとは知りつつもギィはなにがそこまで彼女を頑なにさせるのか知りたかった.そして口にしてしまう. 「あの事件のことなのか」  言ってからすぐにギィはしまったと思い,小さい手で口を覆ってしまう.だが,ラージェは別に責める様子もなく,ただ頷くだけだった.しばらく気まずい時間が流れたのち,ラージェがようやく口を開いた. 「そうね,そろそろネフィにも話さなければいけないわね」 何をと聞くことはギィにはできなかった.ただとぼとぼとその場を跡にするしかなかった.
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