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呻くラージェから眼をそらし,ギィはネフィの方に向き直った.
「ネフィ,言いたいことはたくさんあるとは思う.だけど,彼女も疲れている.明日,もう一度話すべきだ」
「でも,お母さんが死んじゃうのよ?そんな事」
目を真っ赤にし,金切り声でそう言うネフィにギィは首を振った.
「ネフィ,彼女の体調はそんなに良くないんだ.いま話し続けるのはより彼女を苦しめることになる」
「・・」
無言でネフィはラージェを見つめる.確かに,今までよりも顔色が悪い気がした.渋々であったが,ネフィは頷いた.
部屋を去り際に,ネフィは何かを考えるように少し立ち止まった.しばらくそうしていると,振り返ることなく,ただ一言発する.
「おやすみなさい,お母さん」
「ええ,おやすみ,ネフィ」
ラージェの返答に何も答えることなく,ネフィはドアをバタンと閉じると,大きな足音を立てて去っていった.
「ありがとう,狐さん」
「どういたしましてだ」
ギィはそう言うと何かを考え込むかのように腕を組んで座り込んだ.
「それにしても,なぜあんな言い方をした?」
「軽蔑してほしかったのよ」
ポツリとそうこぼしたラージェの目には既に涙は無かった.
「ええ,もし,彼女がね.あんなことをした私を肯定なんてしたら,私の責任じゃないなんて言ったら」
「ああ,そうか」
そう言ってギィは深くなずく.
「でも,魔女としてのあんたのあれは本音なのか」
「ええ,本音よ.嘘偽りなく本音よ.言葉に,ネフィの前で言葉にしてみてやはり,あれが魔女としての本音と実感できたわ」
「そうか・・」
溜息を着くギィにネフィは少しクスッと笑った.
「ええ,それこそ,レナートの言うような「時代」ね.私のような魔女は時代には合わないの.ええ,それに合わせるべきなのかもしれないわ.レナートのように.でも私にはそれはできなかったし,するつもりもなかった」
そこまで聞いてギィは一つ納得がいった.実際,ネフィには嘘をついても良かったはずだ.魔法で延命できない,そう言えばネフィは悲しむだろうが納得しただろう.その嘘を誰も責めないだろう,少なくともギィはその嘘をやさしい嘘として見逃すつもりだった.しかしだ,彼女はネフィに古い時代の魔女の象徴としての自分をわざとさらけ出したのだ.そうすることで,ネフィがそれを知ることができるように.嫌われても,軽蔑されてでも,娘にそうはなってほしくなかったのだろう.
「ああ,すごいな.あんたは」
ギィはそう呟くと,欠伸をし,そそくさと部屋を跡にした.
残されたラージェは大きく息を吐くと,椅子に深くもたれてしまった.
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