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ネフィの部屋のドアをソーッと押し開けると,彼女はベッドにツップしていた.一瞬寝ているのかと思ったが,聞こえてくる鳴き声が彼女が起きていることを示していた.恐る恐る,ギィは声をかけた.
「ネフィ.起きてるか」
ベッドの上の彼女は返事をしなかったが鳴き声が止んだ.
「なあ,ネフィ.少しいいか」
「・・」
無言を了承として,ギィは溜息を吐いた.
「ああ,そのだな,ラージェのことなんだが」
「知っていたの?ギィ.あなたも」
ギィは息を呑んでしまう.何がと言われなくてもネフィの言いたいことはわかっていた.別に誤魔化しても良かったのだが,ラージェの覚悟をついさっき見てしまったからには誠実に振舞いたかった.
「ああ,知っていた.彼女の寿命の事は」
非難されるだろう,ギィはそう思い,首をすくめた.だが,ネフィからは何も帰ってこなかった.
「ネフィ?」
「・・.ギィ.ほんと私って何も知らないのね」
「・・」
「お母さんの体が悪いなんてしらなかったわ.知っていたら私・・」
ギィは首を振った.
「ネフィ,君が知っていたとしても,ラージェは死ぬことを選んだと思う」
「・・」
「君は今でもラージェの事が好きか」
その質問に少し,ネフィは黙ってしまったが,小さいがはっきりとした声で彼女は答えた.
「当たり前よ,だってお母さんなんだもの」
「なら,ネフィ,彼女をお母さん,君の知るラメエル=カレンのままでいさせてあげなよ」
その言葉にネフィは答えなかった.
「恐らく,君が何をしようとも彼女は考えを変えない」
「どうしてよ,どうしてお母さんは私を残していくのよ」
涙声で訴えかけてきたネフィに諭すようにギィは言った.
「ネフィ,彼女は君の母親として最後まで振る舞いたいんだと思う」
「お母さんとして?」
「ああ,そうだ」
暫く,ネフィは黙ってしまう,それをギィはじっと待っていた.ようやく,突っ伏していた顔を,泣きはらした顔を上げてネフィはギィを方を見つめた.
「ねえ,ネフィ,私少しでも,お母さんに長生きしてもらいたいと思うわ.ええお母さんとして」
「ネフィ・・」
「少しでも楽させてあげるの.洗濯物だってするわ,洗い物だってするわ.料理だって.巻き割りだって.ギィも手伝ってくれる?」
「ああ,もちろんさ.こう見えても知識は豊富なんだぜ」
胸を張るギィを見て,ようやく,ネフィは少し笑った.
「なら,ネフィ.今日はもう寝るべきだ」
「ええ,そうね.お休みなさい」
そう言って毛布をかぶったネフィをじっとギィは見守った.何とか気丈に振舞ってくれたがやはり,悲しみは大きいのだろう.灯りを消した部屋のなか,ネフィの小さな鳴き声が止まることはなかった.
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