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ネフィはドアを何かが叩く音で目を覚ます.レナートと思い慌てて起き上がり返事をした.
「はい,どうかしましたか」
「開けてくれないか.ネフィ」
その声は意外にもギィの声だった.慌ててドアを開けてあげるとそこには料理皿を器用に頭に乗せたギィがいた.ドアが開いたの確認するとギィはベッドのそばのテーブルまでそれを運ぶ.
「晩飯だぜ」
そう言うギィにネフィは目を真ん丸にする.
「あなたが作ったの?これを」
「ああ,おれの自信作だぜ」
そう言われてネフィはギィと机のサンドウィッチを見比べる.到底この狐が作ったとは思えなかった.
「あ,大丈夫だぜ.俺は狐に見えてるけど,実は汚くはないからな」
だがネフィが聞きたいのはそこではなかった.
「あの,どうやって作ったのこれを.だってあなたの体じゃ・・」
だが,それを打ち消すようにギィは咳払いをしてまるで誤魔化すようにテーブルに置いたそれをさらに移していく.ぱっぱと器用に用意を進めていき,あっという間にあとは食べるだけという状態に仕上げていった.ギィは胸を張ってネフィが食べるのを待っている.
どうやって作ってか気にはなったが,自信作と言うギィのそれの味が気になり,ネフィは恐る恐る口に運んだ.
「あれ,おいしい」
おもわず失礼な事をネフィは口にしてしまうがギィはそんなことお構いなしにさも当然と言ったふうには頷く.
「当然だろ.自信作って言っただろ」
食事を続けているとギィが口を開いく.
「ああ,そうだ今,主人は出かけているんだ.それと俺もあんたに付いて行くからな」
唐突な話に喉に詰まりそうになりネフィは少し咽てしまう.
「大丈夫か」
「ええ,少し驚いただけ.でもあなたを連れて行ってしまって大丈夫なの」
「ああ,主人からの命令さ.それに俺は普通の人には見えないから大丈夫だぜ」
「あらそうなの.てっきり誰にでも見えるものとばかり思っていたわ」
そう言うと呆れたようにギィは首を横に振る.
「しょうがないな.まあ,主人に頼まれたのは,旅の間少しでもこちらの事をあんたに教えてくれってさ」
そう言われてネフィも納得する.
「じゃあよろしくね,ギィ」
「ああ.よろしくな.魔女ネフィ」
そう言うとギィは笑った.
次の日の朝,ネフィはレナートに連れられて駅にいた.
「ではネフィ.くれぐれも気を付けてくれよ.あと彼女にもよろしく言っといてくれ」
「はい,わかりました」
そう言うネフィの鞄からはギィが顔を覗かせる.
「何かあったらこいつに聞くといい.案外頼りにはなるはずだよな,ギィ」
「もちろんだ,任せてくれよ」
そう言うギィにネフィはクスッと笑ってしまう.鞄から顔だけ出しているギィが少し滑稽に見えてしまったのだ.それにむすっとした顔にギィはなるが何か言う前にレナートに鞄に押し込められてしまう.
「ああ,お金を渡しておくよ.食事代とかも入っているからね.足りなかったらギィから貰うといい.あんな見た目でも少しはもっているからね」
そう言って渡された封筒はずっしりと重かった.
「こんなにも,ありがとうございます」
慌てて頭を下げるネフィの頭をレナートは優しく撫でた
「気にしなくていいさ.ああ,そろそろ汽車の時間だ」
確かに汽車の汽笛の音がなっていた.ネフィはもう一度レナートへ頭を下げると慌てて汽車のホームへと走って行った.
それをレナートは見送り終えると,後ろから声が掛かった.
「なんじゃ今のが,彼女の娘かいな」
慌てて振り向くとそこには年老いた老婆が立っていた.気品と隠し様のない怪しさを併せ持つその老婆に気が付くと慌ててレナートは頭を下げる.
「老ボガーダ.来られていたのですか」
「そりゃ,グスタフ.貴様の弟子になる子だもの.気になるわいな」
そう言って杖を回しカカカと笑う老婆に困った様子でレナートは首を掻く.
「いえ,まだ決定したわけではないのですが」
「いいや,お前さんはあの子を弟子にするさ.儂が言うんじゃから間違いない」
再び笑う老婆にレナートは息を吐く.
「まったく,貴様が弟子をとると聞いて寂しくなると思っておったのよ」
「申し訳ありません.しかしこれも時代ですよ」
そう言うレナートの頭を老婆が持っていた杖でポカリと叩く.見た目よりも痛いそれにレナートは思わず頭を押さえしゃがみこんでしまう.
「まあ,彼女の娘なら面白くなるわな.まず退屈することはなかろうて.そうじゃ,これから行くところがあるんじゃ.共をせんか」
蹲るレナートを放って歩き出す老婆を,慌てて立ち上がり追いかけた.
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