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 ネフィは馴染みの景色を眺めながら馬車に揺られていた.もう間もなく生まれ育った村に着く頃であった.ギィも疲れたのか膝の上で丸くなって寝てしまっている.そのギィの背中を撫でながらネフィは母になんて言うべきか悩んでいた.レナートには保留と言われたが,到底,ネフィは自分が選ばれると思うことはできなかった.それはギィの話を聞けば聞くほど深まっていった.  それに母には聞きたいことがたくさんあった.ギィは母の話になるといつもきまり悪そうに,この前話したこと以上は言わなかった.だが,それでも,往復2カ月の旅で知ったことはまだ若い彼女には多すぎる.深く息をついていると,遠くの方に村が見え始めた.生まれ故郷だ.ネフィはギィの背中をポンポンと叩き,身支度を始めた.    馬車を下りたネフィは意外にも村の入り口に懐かしい顔を見つけた. 「あれ,どうしてここに」 キョトンとしているネフィにその女性は駆け寄ってくると,ネフィの頭を抱きかかえながら髪を乱暴に撫でてきた. 「お帰り,ネフィ.長旅で疲れたでしょ」   そう言って笑った,ネフィによく似た赤毛の女性は,ラメエル=カレン,正しくはラージェ=アルザード,ネフィの母親だった.  暫く,もみくちゃにされたネフィはようやく解放され髪の毛を整える.そうすると横で咳ばらいが聞こえてきた.ネフィとラージェがそっちを振り向くとギィがちょこんと居心地が悪そうに座っていた.二人の視線が自分に向かうともう一度,咳払いをしギィが疑問を口にする. 「ああ・・.親子の再開に水を差すようで悪いんだが,どうしてネフィが来るとわかったんだ」 そう言われるとラージェはクスクスと笑った. 「あら,かわいらしい子狐さん.だってあなたを創ったのは私の妹弟子ですもの.懐かしい気配がしたのよ」 そう言われるとギィは参ったなと言うように頭を掻いた. 「そうなのか.そうだとしてもわかるなんてさすがだな」 賞賛の言葉を耳にしたラージェはさも当然という感じであった.一人感心しているギィから再びネフィに向き直るとラージェは本題を口にした. 「で,どうだったの」  ようやくそれを口にしたラージェにネフィはまごついてしまうと,代わりにギィが口を開いてくれた. 「ああ,そのことだけど,条件付きで了解したってさ」  ネフィは目を丸くしてギィを見たがギィは黙っといてと言うように目くばせをしてしまう.ネフィはどうしたものか悩むが先にラージェが答えてしまった. 「ああ,そうなの.それなら良かったわ」  そんなラージェにギィはどこから出したのかネフィが預かっていた手紙を口にくわえてラージェに突き出した. 「主人からの手紙だ」 それをラージェは一瞥すると封を切らずにそのまま服の中にしまってしまった.そして大きく咳払いをした. 「ああ,そろそろ家に行きましょう.二人とも疲れているでしょ」 その言葉に従ってギィとネフィは家へと向かった.    家に付くとネフィはすぐに自分のベッドへと向かってしまった.本当は聞きたいことがたくさんあるはずだったのだが,疲れがすべてを上回ってしまっていた.ネフィが寝たことを確認するとラージェは手紙を取り出し溜息を着いてしまう. 「はぁ・・」 それを聞きつけたのかひょこっと顔を出したのはギィだった. 「どうかしたのか」 「いや,内容は予想がつくのよ.ただね」 ギィはそれを聞くと今までとは違い,真剣な顔でラージェに問いただす. 「なあ,あんた.本当に死んでしまうのか」 そう言われたラージェはギィの方を向き直ると驚くほど落ち着いた表情でギィの方を見た. 「ええ,そうよ.私はもうすぐ死んでしまうわ」    
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