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余りにも静かな彼女の様子に少し気圧されながらもギィは続ける.
「あんたほどの魔女ならなんとでもなるだろ」
だが,ラージェは首を横に振って妙にサバサバとした雰囲気でいった.
「いいえ,私は死ぬのよ.確かに魔法でしのぐことはできるわ.でもそれはできないの」
ギィはなぜ彼女がそう言うのか理由を聞きたかったが,自分から話さないということは聞いても無駄だろう.それに,どうせ自分が踏み込むべき話ではない,そう判断したギィはあと一つだけ彼女に再び問いただす.
「ネフィはどうする?あんたはネフィを残していくのか?因みにだ,あんたがネフィに自分でそのことを話す,それが主人の条件だ」
どうやら彼女もそれは予想がついていたらしく,特段うろたることもなかった.ただ,それにこたえることはなく彼女は悲しそうに眼を伏せるだけだった
二人がそんな会話をしていたなど露も知らずネフィは眠け眼をこすりながら自分の部屋から出てきた.そんな彼女が居間の扉を上げるとラージェがすでに朝食を作り始めていた.たった二カ月されど二か月.彼女にとって毎日の風景であったそれに思わずため息がでてしまう.
「あら,ネフィ.朝から溜息なんてどうしたの」
「いいえ,お母さん.なんか少し疲れてるだけ」
そう言うとラージェは長旅だったものねと言って再び料理に取り掛かる.そんな母の背中を見ながらネフィは椅子に腰を下ろす.今,目の前で料理をしている母が実は魔女で,ゆうに100歳を超えている,その事実がまだネフィには信じることができなかった.
テーブルに今までのように料理が並ぶ.どれも朝にしては少し重め,しかしどれもがネフィの大好物であった.
「さあ,ネフィ.いただきましょう」
「はい,いただきます」
黙々と食事が進んでいく.そんな中,ついにネフィは母に尋ねた.
「ねえ,お母さんって魔女なの」
ラージェはこちらへと目を移すことなく,鶏肉を切り分けながら答える.
「ええ,でも過去形ね.魔女だったの」
「私,何も知らなかったわ」
すこし非難がましい口調になったとしてもしょうがないだろう,だがどこ吹く風の様子でラージェはネフィの皿に鶏肉を載せていく.
「だって言わなかったもの.しかたがないわよ」
「びっくりしたのよ,それにお母さんほんとは何歳なのよ」
つい大きい声になってしまったネフィにラージェは指を頬にあてて少し考え込んでしまう.
「うーん,400ちょいかしら?ああ,ネフィあなた鶏肉はこれだけでいい?」
その様子に,呆れてしまったネフィは頭に手を当てるが,焼いたばかりの鶏肉の匂いが腹に響く.何せ旅の間は干し肉ばかりだったのだから.
「もう少し多めに.まったく,信じられないわ」
そう言うとラージェはクスリとわらって鶏肉を山盛りにした皿をネフィによこす.
「あらそれは言わなかったこと?それとも私が魔女だったていうこと」
からかうようなその言葉に,皿を受け取りながらネフィは強めの口調で返した.
「全てよ,魔女も,魔法も,魔法使いも,お母さんも,そしてギィも全てよ」
そう言ってネフィは乱暴にフォークで鶏肉を刺し口に運んだ.その味は懐かしくやはりとてもおいしかった.
食事の後,ネフィがいなくなった部屋にギィがひょこひょこと現れた.
「あら,子狐さん.遅いわね.もう少し早ければ一緒に食べれたのに」
だが,ギィは鼻を鳴らして胸をはった.
「気を使ったんだよ.親子水入らずの会話ができるようにね」
そう言われてラージェは思わず笑ってしまう.実はラージェにはギィが先ほどの会話をすべて聞いていることは知っていたのだ.もちろん彼が気を使っていることも.
「あら,それは悪かったわね,残り物だけどいるかしら」
そう言って,レーズンパンと鶏肉の残りを差し出すと,ギィは小さい下で舌なめずりをして駆け寄ってきた.
「なあ,あんた結局どうするんだ?条件を呑むのかい」
小さな口でぱくつきながら行儀が悪いがそのままギィは問いかけた.
「ええ,結構よ.私からネフィに言うわ」
そしてラージェはギィの頭をやさしくなぜる.どこ覚悟を決めた目をしていた.
「だけど,もう少し時間をちょうだい,絶対に私から言うから」
「そうか,それは良かった」
そう言うってギィはニィと笑ってラージェに向き直る.口にはパンカスがついていた.
「だって俺,ネフィのこと気に入ってるんだぜ」
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