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 ネフィは膝の上にギィを抱きかかえてテーブルの前に座っていた.向かいには所謂絵本の中の魔女の格好をしたラージェが帽子を片手に座っていた. 「その恰好,本当にするんだ」 ネフィが感心したように言っていると,ラージェは当然というように胸を張った. 「魔女の服装って言ったらこれでしょうに.尖がり帽子に,ローブ,そして杖」 「あと,猫がいれば完成ね」 あきれたようにネフィが言うと膝の上のギィが耳打ちをしてくる. 「なあ,ネフィ.一応言っとくがこれはかなり古風なスタイルだぜ」 帽子をはたくと埃がまい跳び,ラージェは咳をしてしまう.だいぶ昔の帽子のようにネフィとギィには見えたそれをラージェは懐かしそうに眺める.   「さて,ネフィ.私があなたに魔法を少しだけ教えてあげるわ」 「本当なの」 訝し気に見つめるネフィにどこか覚悟を決めた目をしたラージェは深く頷いた. 「絵本の魔女のように飛んだりするの?箒を使って」 それを聞くとラージェは何か面白かったのかすこしクスっと笑って,首を横に振った. 「いいえ,ネフィ.もっともっと大事な話よ」  実際,ネフィは魔法の話をギィから聞いていたが,実際に見たことはまだなかった.まあ,しゃべる狐という時点でギィも普通ではないが.そのせいかネフィは少し残念そうに肩を落としてしまう. 「ネフィ.私が言うのはもっともっと大事な話.だって空を飛んだり,火をつけたりなんて誰だってできることなのも」 そういってネフィを諭すが,だがその横でギィは申し訳なさそうに声を上げた. 「すまないが魔女ラージェ.今は空を飛んだりできる魔女はあんたの時代より減ってるぜ」 そういわれるとラージェはあきれた様子で鼻で笑った. 「今はそこまで落ちてるのね.まあ,でもそんなことも出来ないなら魔女って名乗らないでほしいわね」 それを聞いたギィは感心してしまう.自信にあふれるラージェの姿は才媛として知られた彼女の実力を示しているように思えたのだ.   「それでね,ネフィ.貴女には今日から毎日私の話を聞いてもらうわ.ええ,聞くだけでいいの」 「わかったわ.お母さん」 そう言うとラージェはよろしいというように大きく頷いた. 「でも,どれくらいの間なの」 「そうねぇ・・」 そういって考え込むラージェをネフィに気付かれないようにギィはじっとみつめる. 「半年・・.いや1年かしら」 それを聞くとネフィは大きく声を上げてしまう. 「ええ,そんなにも」 「だって話すことはいっぱいあるのよ.ええ,いっぱいね」 そう言うラージェの目は据わっていた.ギィはそれが覚悟の表れだと感じた.ネフィは長いといったが,たった1年,これがラージェの残された時間.この親子の別れはすぐそこにあると思うとギィの小さい胸がとても痛んだ.
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