第二節 魔女の掟 その3

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第二節 魔女の掟 その3

 天井から落ちてきた白い蛇はその鎌首をもたげると、神蔵と燦宮を交互に見やり、その直後、あっと思う間もなく一人の女へと変貌を遂げた。  女は(みやび)な白い着物姿で、その帯は濃紺と赤紫の二色で、帯締めは濃い桃色であった。  年の頃は50歳代前半くらいに見えたが、その表情は若若しかった。 「まずは、お座りなさい。神蔵さんとやら」  女は小さいが厳しい声でそう告げた。  その声に圧を感じ、神蔵はその場に正座し、燦宮も観念したのか、おずおずと正座の姿勢を正した。 「さて...燦宮...説明してもらいましょうか?」  女は燦宮を鋭く見つめて言った。 「は...い。 お師匠様」  燦宮は神蔵と師匠を呼ぶ女を交互に見つつ話し始めた。 「私は、あのとき以来、蛙の置物となりましたが、日没から日の出までの目が覚めている間は、来る日も来る日も思念を飛ばして、私の思念と同調してくれる男の人を探していました」  燦宮は遠い目をして話を続けた。 「そして置物になって1年程の間、私は、上は80歳くらいから、下は10歳くらいまでの何千人もの男に思念を送りましたが、その中で十数人の方が私の思念を受け止めて駅で降りてくれました。でも、残念ながら[有田亭]の結界の中に入って来れる人は一人もいませんでした」  その直後、燦宮はいきなり目を輝かせ出し、勢いよく言葉を発し始めた。 「そんな、半ばあきらめかけた矢先でした。ついに私の思念を受け止めて、しかも[有田亭]の結界を突破してくれた男の人と出会ったのです!」  燦宮は恋焦がれる男を見る目つきで神蔵を見つめた。 「それが、、、神蔵さん! あなただったんです!!」 「ええっ?! そんな結界を突破するだなんて力を、この僕が持っていると言うんですか??」  神蔵は驚いて燦宮に聞き返した。 「はい。あなたが駅の通路で開けたあのドアは、他の人は見ることも触ることもできませんでした」 (なんだって!? あのドアは俺にしか見えなかっただって?!)  神蔵はことの成り行きに驚くばかりであった。 「なるほど...やはり、そういうことでしたか」  師匠と呼ばれた女は、やや硬い表情を崩して神蔵を見た。 「これは、おみそれしましたね。神蔵さん。いえ、神蔵 秀人さん...確かに、あなたからは、強い霊力を感じます。まだまだ未熟なようですけれどね?」 「霊力...ですか。 そんなものが自分にあるなどとは考えてもみませんでしたが...」  神蔵はそう答えたが、自分の言葉には(少し嘘があるな)と彼は頭の片隅で考えていた。
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